「こちらあみ子」風変わりな少女の目線で綴られたお話

前回Audibleで聴いた著者。今回は書籍で。

「こちらあみ子」 今村夏子 著

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あみ子は、小学生の時からよく学校をサボり、たまに登校しても大声を出したり途中でいなくなったりしてしまう少し風変わりな女の子。一緒に登下校してくれる兄、優しく滅多に怒らない父、自宅で書道教室を開いていて妊婦である母と暮らす。近所には母の書道教室に通う憧れののり君もいる。自由気ままに生活しているあみ子だったが、母親が流産した頃から少しづつ家族の様子が変化し始める。

「一風変わった人物」が登場するのは本著者の特徴。前回はこちら。

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前回も捉えどころのない人物が出てきましたが、今回は明示されていないものの、発達障害を持った少女が主人公。周囲の言動、特に心情を推し測る事ができず、(というか彼女なりには考えてはいるのですが)裏目裏目に出てしまい、結局家族崩壊に至ってしまうというお話。

一見彼女が原因で家庭が壊れてしまったかのようですが、実は既に問題は家族に内在されていて(義母は彼女を突き放し、父親は放置、兄は不良学生に)、彼女はほんのきっかけにすぎない。しかし世の中というのは「あの子のせいで…」と一括りにした見方をする、そんな家族を含めた周囲の反応が、あくまで「あみ子」の目線で描かれています。

障害者を持つ家庭への偏見が生まれるのでは、というリスクをわかった上で、敢えて障害を持った子供を設定しているとも考えられ、その意味でも家族の根本的な問題を突きつけていると思われます。

最後まで「あみ子視点」なので詳細が説明不足気味ながら、どこか客観的で突き放したような語り口。しかしこれがかえって、最終的に彼女一人が悪者にされてしまうやるせ無さを強調しているようです。

実は本作を手にしたのは、付随している短編「ピクニック」が目当て(「花束みたいな恋をした」で二度も言及されていたのは有名)。

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「「ピクニック」を読んでも何も感じない人間」かどうかはさておき、結局タイトル作ほどには印象は強く残りませんでした。「ピクニック」に描かれている「真綿のように善意で人を追い詰めていく悪意」みたいなものは気づいたけれど、さて今どきの若者は何を感じるのだろう。