「黄色い家」貧しさと犯罪によって歯車が狂い出す少女たちの同居生活

いやー、何か凄いもの読んじゃった(聞いたちゃった)という感じでした。Audibleで。

「黄色い家」  川上未映子 著

https://m.media-amazon.com/images/I/71EH6FYaVwL._SY522_.jpg

Amazon.co.jp

2020年、総菜屋に勤める花はある日ニュースの記事に黄美子の名前を見つけ、60歳になった彼女が若い女性の監禁・傷害の罪で逮捕された事を知る。黄美子は20年前、花がまだ20歳前後の頃に同世代の少女たち二人と一緒に暮らしていた女性。最初はスナックで働いていた4人だったが、そこを火事で焼き出された後、金に困った彼女らは犯罪に手を染めるようになった当時の事を、次第に花は思い出していく。

男と金にだらしない母親と暮らしていた主人公。アルバイトで必死に稼いだお金を母親の元カレに盗まれ、スナックで貯めていたお金もこの母親に持って行かれてしまい、止むに止まれず「シノギ」という違法行為に手を出すようになります。

典型的なドロップアウトした女の子たちの転落劇かな、と、売春やドラッグなどにまで手を染める事も予想して内心ハラハラしながら読み進めましたが、そこまで至らなかったのは幸いでした。

とは言っても頑張ろうとすればするほど目の前が塞がれてしまう主人公の花を思うと、やり切れなさを感じます。この貧困のループと、それを上回る程に花が抱える「家」や「家族」(決して血縁にとどまらない)と言ったものへの渇望感が、本作の底に深く根ざしているようです。

同居していた友人の一人、桃子と花が口論するシーンがあります。4人分の生計の為同居する友人二人も巻き込みながら犯罪を続ける花に対し桃子は、「みんなの為と言いつつ自分が一人になりたくないから。周りによくやったと褒めてもらいながら金で同居する自分たちを縛ろうとしている」と追い詰めます。

実は桃子は実家が裕福で基本お金に困らない筈の女の子。(いろいろ事情はあるにせよ)立場的には強者と言ってもいいでしょう。貧困により「持たざる人間」に「持てる者である側」の理屈を振りかざしているのです。

ここで、前回読んだ「ヘヴン」でも立場の違う者同士が対峙する場面があったのを思い出しました。「いじめに意味などない」といじめる側がいじめられる側に言い放っていました。

minonoblog.hatenablog.com

圧倒的な立場の違いを独自の理論で対比させているのは興味深かったです。

犯罪は決して良くないものの、手に入れたものを繋ぎとめようとしゃにむになっていく花の姿は痛々しかったです。

登場した殆どの人が幸せな結末を迎えられず、正直後味は良くありません。しかし伏線を回収しないままで終わらせる事もできたであろうけれど、彼らの「その後」まできっちり描き、読者にも目を背けさせなかったのは、物語としてとても重みを感じました。