「ター」孤高な天才指揮者の裏の顔をオカルト要素もある映像で

「世界のオザワ」として著名な指揮者だった小澤征爾さん。クラシックに疎い私でもその名前は存じ上げているくらいに活躍されていた方です。丁度リストに入っていたままの作品が思い出されたので観る事に。アマプラで。

「ター」

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映画.com

世界屈指のオーケストラの一つであるベルリン・フィルで、初の女性の首席指揮者として任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。天才的な能力とプロデュース力、そしてカリスマ性で彼女はその地位を確固としたものにしているが、一方でマーラー交響曲第5番の演奏と録音、そして作曲家としての新曲の創作というプレッシャーに苦しんでいた。そんなある日かつてターが指導していた若手指揮者の女性が自殺したという訃報が入るが、彼女はターからパワハラを受けていたとされ、ターは自殺した女性の両親から訴えられる。

冒頭の講演での長い(結構長いです)のインタビュー、オケのリハーサル、学生に対する授業、あらゆるシーンで圧倒的な自己に対する自信を見せつけるター。男社会で生き延び這い上がっていく術なのか、男性的なスーツを仕立て、「マエストロ」と呼ばれる事にも抵抗なく受け入れており、「女性初の」というよりもどこか擬似男性のような振る舞いであり、それは家庭内でも変わりません。

パートナーであり公私ともに支えてくれる女性シャロン(同じくベルリン・フィルコンサートマスターでもあります)と養女ペトラと暮らすターは彼女らに愛情を注ぎつつもどこか男性的。基本的にペトラの育児はシャロンに任せ(詳しい説明はないものの)外では多くの女性関係があるようです。

自殺した生徒と過去に何があったのか、他にパワハラはあったのか、などについて説明的な描写がないので、(少なくとも私には)少々わかりにくい作品でした。しかし、訴訟その他諸々の後、あまり裕福そうに見えない実家に戻るシーンがあり、そこから這い上がり成功をつかむ為に闇雲に走ってきた結果が、少なからず人々を虐げてしまい、最終的な代償に繋がるのは皮肉に映ります。

正直、予告編から連想されるような「暴君」の姿が最初見受けられず、「意外に紳士的」とさえ思われ、それ故に徐々に見え隠れする「傲慢さ」とそれに相反するように精神的に壊れる「脆さ」が際立つようです。

とは言っても全てを失いながらも指揮棒を振り続ける彼女には、やはりある種「したたかさ」を感じざるを得ません。

実はオーケストラ関連だけでなくいろいろと難しかったので、鑑賞後ご本人のインタビューや他の解説など参考にさせていただきました。しかし細部は分からなくとも、精神的に追い詰められていく様を演じたケイト・ブランシェットの迫力は感じることができて、それだけでも本作見応えあるものと言えます。