「正欲」マイノリティーとは何かという本質的な問題を突きつける一冊

気になっていた一冊。やっと読めました。Audibleで。

「正欲」 朝井リョウ 著

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小学生の息子が不登校になった検事・啓喜、容姿のコンプレックスや兄への嫌悪から男性と恋愛関係に至れない女子大生・八重子、人に言えない性癖を持つ夏月。それぞれが悩みを抱えながら生活する中で、やがて一つの事件へと関係していく。

かなり以前になりますが、娘の受験前、オープンキャンパスに同行してある大学を訪問した際、とある公開ゼミで「自分はゲイだが田舎である地元ではなかなかオープンにできず苦しかったが、都会に出てきてやっとカミングアウトできた」旨語る学生がいて、あぁ時代はこんな風に変わっているのだな、と思いました。

さて、社会的に「ダイバーシティ」や「多様性」が謳われるようになって暫く立ちますが、果たして本当に「少数派」とされている人々と共存できているのか、非常に大きく捉えがたい問題を、真っ向から扱っているように見受けられるのが本作です。

LGBTやマイノリティー云々という言葉が一人歩きし、或いは極端に過剰反応されるようにポリコレが暴走するのをメディアで目にする度に苦い思いを抱いていました。言語化できなかったモヤモヤを、本作にあるセリフの数々でふとすくい上げられたような気がします。

特殊な性癖が取り上げられている本作ですが、「マイノリティー」のカテゴリーからすらも外れてしまった彼らを擁護するのが、趣旨ではないでしょう。

ごくスタンダードな生活を送るいわゆるフツウで「こちら側」の人々が、いつしか「あちら側」の人に対して感じている「優越感」。多様化を叫ぶ一方で、この自分たちは標準レベルを超えているという不遜な意識が見え隠れしている現状に鋭い指摘をしているように感じます。

更に、「フツウ」の世界に身を置いているのに、(世間では当たり前と思われているようには)彼氏彼女がいない人もいる訳で、そんな「マジョリティーの中にいるマイノリティーの人」の声も十分に拾っているのが、本作の大きなポイントのような気がします。

桐島、部活やめるってよ」以来、折に触れ作品は手に取っていた作者。あぁやっぱり私はこの作家さんが好きなんだな、と思った作品でした。