「汝、星のごとく」瀬戸内の自然を舞台にした物語

GWの旅行の事を書く前に、新幹線やホテルで幾つか読んだ本の話などを。本屋大賞受賞作。「流浪の月」も読んだので雰囲気は何となく想定しながら。Audibleで。

「汝、星のごとく」 凪良ゆう 著

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美しく風光明媚だが閉鎖的な瀬戸内海の島で暮らす高校生の井上暁海は、父親が長らく愛人の元に行ったままで情緒不安定な母親と二人暮らし。自由奔放で男グセの悪い母親と暮らす転入生、青埜櫂と付き合うようになる。互いの複雑な家庭環境に悩まされつつ愛し合うが、櫂が島を出た事から遠距離となりやがて気持ちもすれ違うようになる。

「流浪の月」は文庫で読み今回は「耳」で聞いたのですが、印象として文章が綺麗。なので人物設定が相当イビツであってもサラサラと読めてしまう(聞いてしまう)不思議な印象のある作家さんです。

暁海と櫂の二人の視点から交互に語られ、それぞれに男あるいは女特有の身勝手さや我儘などがあけすけに表されてなかなか面白い筋立てでした。

それぞれ親の理不尽な行動の犠牲になる高校生の二人。「フツウ」ではない家庭にいるという共通点もあり次第に惹かれあっていきます。島や海の自然が美しい程に、かえって彼らを取り巻く大人たちの酷さが際立つように思われ、だからこそ二人の結び付きが強くなっているようです。障害が多いほど燃え上がるという事でしょうか。

 

暁海の父親の愛人瞳子は刺繍作家として経済的に自立しており暁海も憧れる「大人な」女性という設定。若い二人に大人の立場でいろいろ諭すのですが、他人の家庭を壊しながらあまり深く反省している様子もなく寧ろ何か堂々としていて、そこが高校生には「カッコ良く」写るのかもしれませんが、「いや、貴女がそれ言えるの?」と言いたくなる場面もしばしば。

暁海の父親も、自分の妻が精神的に破綻した状態であるのを目前にしながら、愛人の元から戻ろうとしない何とも最低な男です。

でもこれが映画化されるとしたら、きっとそうなっても仕方ないほどの妻という設定になり、愛人も綺麗な女優さんが演じるんだろうなぁと思ってしまいました。

若干ネタバレになってしまいますが、結局暁海はあれだけ嫌がっていた島を出る事なく過去に愛した人の記憶を胸に、愛していない人との形だけの家庭を作り、思い出一杯の美しい海のそばで刺繍作家として生きていく事を決めます。ロマンチックな幕引きのようですが、最終章で彼女32歳。思い出だけに生きていくには早すぎないか?

「周囲はわからなくてもいい、自分たちだけがわかっていれば」という価値観は「流浪の月」にも見られた記憶があったのですが、とても危うく今作では説得力が感じられませんでした。

物語の構成も良かったのですが、今ひとつ感情移入できなかったものの、ドラマティックな展開で最後までほぼ一気に読めました。レビューでも沢山の高評価があり。高校生の時ならボロ泣きしてたのかな。ちょっと娘に読ませてみましょうかね。