「第三夫人と髪飾り」美しい映像のベトナム映画に悲しい夫人たちの運命を観る

昨日寝る前に軽い気持ちで観た映画。とっても深いお話でした。アマプラで。

「第三夫人と髪飾り」(2019年)

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引用:映画.com

19世紀の北ベトナム。富豪である大地主のもとに第三夫人として嫁いできた14歳のメイ。一族には、唯一の男子を産んだ第一夫人、女子ばかり3人産んでいる第二夫人が共に暮らしている。まだあどけないメイも、代継となる男子を産まねば「夫人」として認めてもらえない、厳しい現実を知るようになり、やがて彼女自身も妊娠する。

綺麗な映像です。深い山々の緑と川の蒼さが水彩画のように映し出されます。PRにもあるようにまさに桃源郷です。自然の美しさを背景に静かな日々が流れていくのですが、それとは対照的に嫁いできた女たちの運命は過酷。

後継となる男の子を産まないと「夫人」と呼んでもらえない彼女達。娘しかいない第二夫人は一目置かれることもなく発言力もない。息子のいる第一夫人とて一人しか男の子がいない為盤石とは言い難い存在。一夫多妻の家庭の中で妻としての地位を確立させる事が全てであり、それで運命が決まってしまいます。

まだ14歳のメイは、第二夫人の娘達と歳が近く気楽に暮らしていましたが、妊娠する事で自分も何とかして男子を産まねばと願い、早くも自分の運命を受け入れるのです。

豊かな自然と同じように非常に穏やかな毎日で、3人の妻達もあからさまに妬んだり罵ったりする事なく、互いに助け合いながら生きているのは、不自由な生き方を甘んじて受け入れざるを得ない互いの立場を理解しているからでしょう。いわば運命共同体のようです。

第一夫人の息子と密かに逢瀬を重ねる第二夫人。別れ話の際のやりとりから、どうも3人目の娘は彼の子供と示唆されます。男子を得る為第一夫人の息子を利用したのではないでしょうか。

そして(感のいい)第一夫人はそれを薄々察していながら、(運命を共にする人間として)見て見ぬ振りをしていたのでは、と思われます。

第二夫人を諦めきれない彼は、親の決めた望まない相手との見合い結婚後も、新婦をどうしても受け入れられず、拒絶された新婦(まだ幼女のようです)は離縁もしてもらえないまま行き場を失い結局自ら命を絶ってしまいます。

どこまでも「子孫繁栄」の為の手段としてしか「価値」も存在さえも認めてもらえない彼女達。

翻弄される運命の中で、太々しいほどに強くしたたかに生きざるを得ない彼女達をラストに観たような気がします。