「口福のレシピ」一皿の料理が繋げる昭和と現代の女性たちの物語

原田ひ香+料理で読みやすそうな一冊を。Audibleで。

「口福のレシピ」 原田ひ香 著

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江戸時代から続く伝統ある料理学校「品川料理学園」の一人娘留季子。後継者とされるプレッシャーに耐えきれず、卒業後は家を出てSEとなるが、本来食べることも料理も好きな事からSNSでレシピを発信するうちに料理研究家としての仕事も舞い込むように。やがてアプリ開発会社と連携し献立レシピの企画を立ち上げるが、レシピ作りに難航する留季子は無意識に実家で食していたある料理と酷似するものを提案するが、それは実家と学園に深く関わる一皿だった。

現代を生きるOLと昭和一桁の時代に女中として働く女性の生き方を、料理を通して交互に描いた作品。「料理」が主軸となるので美味しそうなレシピもたくさん登場する楽しさがあるものの、「家」の犠牲になる女性の在り方も描かれていて、思った以上に深いドラマでした。

家庭料理を教える学校でありながら、その学長である母親たちは代々家庭で料理する事なく仕事を優先しているという現状に反発している留季子。反抗の意思表示のようにSNSで「独自」のレシピを公開し「親の後ろ盾なく」料理研究家として認められたと思いきや、事あるごとに「伝統料理学校の娘」であることが付いて回る悔しさ。

一方、大屋敷である「品川料理研究所」で働く女中しずえは、初めは下働きだったが、持ち前の研究熱心さと味覚の良さを見出され、やがて当時は珍しかった肉料理のレシピ開発を任される試行錯誤を繰り返したのちに、その後学園が大事に継承される豚の生姜焼きが誕生。しかしあくまで「使用人」の域を超えないよう自身を律しているのです。

純粋に料理研究者としての才能を見出されながら、雇い主の家を守る為日陰の存在となるしずえ。その時代としては「考え売る」状況だったのかもしれませんが、「旦那様」や「奥様」の決断は残酷に思われ、それを甘んじて受け入れる(受け入れざるを得ない)しずえが悲しく思われます。

しずえの半生が重いドラマなので、対して留季子が必要以上に我儘なお嬢さんのように映ってしまうのは少々残念な気もしました。

現在NHKの朝ドラ「虎に翼」でも時代設定は昭和の初め。同じように女性たちの生きづらさが描かれていていますが、こちらはハッピーな結末が待っていることを願っています。