「成瀬は天下を取りにいく」ローカル愛豊かな青春物語

本屋大賞受賞作。配信を待っていました。Audibleで。

「成瀬は天下を取りにいく」 宮島未奈 著

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滋賀県大津市に住む中学2年の成瀬あかりは子供の頃から「変わり者」。クラスでも浮いた存在で幼馴染の島崎みゆきだけがいろいろと付き合う羽目になる。いつも突拍子も無い言動をする成瀬が今度は、コロナ禍で閉店する「西武大津店」に毎日通い、地元ローカル番組の中継に映ることをこの夏の目標にすると言う。ただテレビで成瀬の映り具合をチェックするだけの筈だったみゆきは、いつの間にか成瀬に同行するようになる。

「この夏を西武に捧げる」「200歳まで生きようと思う」「シャボン玉を極めたい」「M1に出場しよう」

支離滅裂で破天荒な台詞だけれど本人は至って真面目。他人の目を一切気にせずただ目標に向かって突き進む女の子が主人公。漫画を読んでいるようなスピード感があって一つ一つのエピソードが短いせいもあり、一気に読めてしまいました。

「ゴールに向かってまっしぐら」的な彼女だけれど、ほぼほぼ「こんな物かな」と納得できればあっさり止めてしまう切り替えの早さはまさしく「マイペース」。付き合わされる幼馴染としては振り回されている感が少々気の毒でもあり。

「かなり変わった子」として描かれている成瀬ですが、よくよく見ると関わる周囲の人間もなかなかユニーク。それぞれがほどほどの距離感を保っているようで、それが最終的にほのぼのした雰囲気になっているのでしょう。

成瀬の独特の言い回しや飄々としたやり取りが面白かったけれど、何より「こんな成瀬のおかげで私も変われた」みたいなよくあるヒロイン物に見られるある種の押し付けがまさが無く、「あっさり加減」も良かったように思います。

最後のエピソードで幼馴染のみゆきの心情に成瀬が留意し、それまでにない彼女の繊細さが描かれている場面があったのですが、個人的には最後まで周囲には頓着しない我が道を行く成瀬でいて欲しかったな、とやや残念な気も。

しかし全体的には楽しく読めた作品。成瀬を一目惚れした高校男子と二人でデートするところは久しぶりに声に出して笑いました。

ネットでは早くも聖地巡礼で大津に行った人も。滋賀に行った記憶も曖昧なんですが(失礼)琵琶湖のミシガンクルーズ、乗ってみたくなりました。