「まずはこれ食べて」期待通りのお料理と期待を裏切るラスト

家事をしながらでも聞けるのがAudibleの良いところ。台所で聞いていると美味しそうなレシピが…ほんわかムードで始まった物語は予想しなかったラストを迎えます。

「まずはこれ食べて」 原田ひ香 著

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胡雪は、大学の友人達と共に立ち上げたベンチャーに卒業後からずっと働く30歳。会社は軌道に乗ったように見えるが、その一方で社内皆多忙の為生活は不規則となり、オフィス内は散らかり放題。殺伐とした状況を改善しようと、社長の田中は家政婦を雇う事に。派遣された筧みのりは無愛想だがテキパキと社内を片付けながら、暖かい夕食と夜食を用意して帰っていく。食事を通してみのりと打ち解けていく社員たちは、それぞれ他者に言えない悩みを抱えていた…

最近多い「お食事もの」の様子。帯にも「疲れた心と体にじわっと沁みる絶品オフィスご飯!」なんて書いてあるし。

大学仲間で起業した会社に卒業と共に入り、以降「友達同士」の気安さとそれ故の先行きの見えない頼りなさで焦りを感じ始めている30代の若者たち。そこへ年配家政婦が暖かく美味しい食事を提供して、更に人生指南も与える、といった構図が連想されます。

確かに、冒頭から社員一人一人と向き合い、食事を差し出しながら胸の内を聞くあたりまでは、予想していた通りの展開。

しかし、起業の発起人で現在失踪中の仲間の行方が徐々に明らかになるあたりから、物語のトーンが変わってしまいます。それは前述したような「よくあるパターン」を「敢えて」避けようという作者の意図からくるものかもしれません。

特にエピローグの章一つが、まるで違う作者が書いたのかと思うくらい印象が変わってしまって、それ故にラストの評価は分かれてしまうのではないかと思われるくらいです。個人的には、伏線の回収以上の「付け足された」感が否めない印象を受けました。

人気者で憎めないキャラクターだった仲間の一人が、最後に闇堕ちしたような小悪党に描かれてしまったのは残念。それまでのエピソードごとで登場する料理が本当に美味しそうで、帯にある通り「じわっと沁みる」素朴な逸品ばかりだっただけに、この落差は大きかったです。

勿論それこそ作者の狙い通りなのでしょうが。まぁ結局好みの問題ですかね。それにしても塩だけで作るほうれん草くたくた煮のスープ、美味しそうだったな。絶対今度トライしてみます!