「母という呪縛娘という牢獄」残虐な事件の裏側にある母娘の歪な関係

久しぶりにノンフィクションをAudibleで。

「母という呪縛娘という牢獄」 齊藤 彩 著

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2018年滋賀県琵琶湖南側河川敷で、両手両足頭部の無い体躯部だけの遺体が発見される。腐敗と損傷が著しかったものの周辺の聞き込みと調査の結果、発見現場近くに住む高崎妙子58歳である事が判明。夫とは別居状態で長年31歳の娘あかりと二人で暮らしていた。あかりの不審な供述から警察はあかりを死体遺棄容疑で逮捕、その後死体損壊そして殺人容疑での逮捕・起訴へと踏み切る。調べていくうちにこの母娘の異様な生活ぶりが明らかとなって行く。

一人の女性記者が、拘置所の容疑者と面会を重ね、刑務所移送後も書簡を往復し続けることによって、炙り出された真実がまとめられた作品。

異様なまでに学歴にこだわり、超難関国立医学部への進学を強要し、9年もの間娘に受験させ続けた母親。そして何度も家出を繰り返しつつも、結局怒号と体罰に屈し続けた娘。

読み終えた後、どうにもやるせない気持ちになります。それは親と娘両方の立場を省みてしまうから。

本作は一女性記者による容疑者へのコンタクトをベースとして描かれたノンフィクションである為、娘からの視点に絞られたストーリーになっており、どうしても「母親の視点が考慮されていない」という何か欠落感みたいなものが最後まで付き纏います。

病的なほどに娘の成績や学歴に拘り最終的には娘の「人生」そのもののコントロールにしがみついていた母親こそ、心の病を抱えていたと思わざるを得ず、恐らく自身の母親に対するコンプレックスなど何某かの屈折した思いがあったのではと思われます。

そんな母親からいち早く逃げてしまった父親。最終的に殺害を認めた娘に経済面を含めサポートを惜しまず「尊敬に値する」人でありながら、何故妻の生前に娘を救い出すことができなかったのか。職場の同僚たちからも支持されるような人であるだけに、何とも残念な気持ちになります。この父親の視点がもっと反映されれば、本作は又違った印象になったかもしれません。

自分同様に母親も追い詰められたいたのでは、と母への思いを馳せるようになるあかり。暗い闇を心に抱えていた母親はもしかしたら自ら命を絶つことが出来かねず、娘にその役割を託してしまったのかもしれません。しかし意識的にも無意識でも、我が子に「自分の親を殺めてしまった」という罪を負わせることは、親として一番の不幸と言わざるを得ないでしょう。それは彼女が娘に対し長年行なっていた罵倒や体罰などよりもよほど大きな罪なのではないでしょうか。

凶行の残忍性や毒親というワードだけが一人歩きしそうな本件、母親の生い立ちや父親の心情が加われば、更に深掘りされたであろう事を考えると残念な気がします。