「花束みたいな恋をした」偶然の出会いから別れまでの軌跡

少し前にヒットした映画。本屋さんでも関連書籍が平積みされていた時期がありました。好き嫌いは別にして観ると色々語りたくなる作品。ネットに溢れる感想・解説を読むのも楽しかったです。

「花束みたいな恋をした」

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映画.com

東京京王線明大前駅で終電に乗り遅れた山根麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。共に大学4年生の二人は、映画や本など好きなものが殆ど同じであっという間に恋人同士になり、定職につかずアルバイトのまま同棲をスタート。やがて麦の親からの仕送りが途絶え金銭面を考えた二人は、現状の生活を維持すべく就職活動を始めるが…

偶然に出会った若い二人の約5年間の暮らしと心の動きを、丁寧に(出来る限り公平に)双方の視点から描いた作品。

本作で主に触れられ二人が意気投合するきっかけとなったポップカルチャー。小説や映画など、「メジャーではないものの知る人ぞ知るアート」をこよなく愛する二人は、同じアンテナを持つ相手に「運命」を感じてしまうんですね。

しかし就職した先で社畜のように残業続きの生活を送り、そんな趣味に時間を費やす余裕もなくなる麦。一方あくまで好きな事を優先したい絹は、一旦就いた事務職を手放し「面白そうだから」という理由でイベントの企画会社に転職します。

価値観を共有していたと思っていた二人の生活にほろほろと綻びが見え始める頃。

就職で生活ペースが異なる事によるすれ違い… しかし根本的な違いは既にあったかも。

絹の両親は広告代理店に勤めそこそこに裕福で、且つ娘が朝帰りをしようと特に責める風でもなく、都会的でオープンな家庭。

これに対し麦の父は地方(長岡の花火の話をしていたから多分新潟)で詳細は定かではないけれど地道に勤めているであろう朴訥とした男性で、堅実な家庭であることが想像できます。

元々東京で生まれ育った絹は、たとえ仕事で失敗したところで何れにせよ東京から離れることなど頭にはなく(簡単に言ってしまえば何とかなると考えられる気楽さが、無意識に実家の存在を物語っている)、仕送りが絶たれ仮に仕事で失敗すればもう東京に住む理由がなくなる麦とは、完璧に仕事に対する覚悟が違うのです。

「仕事(正社員という意味で)に就きなさい」とくどくど説く絹の母親は、そんな絹の「甘さ」を見抜いているからでしょう。そんな事言われなくとも麦は十分自覚しているでしょうから。

生活とはすべからくお金が必要となるもの。しかしこの先どんな事があっても「絹との生活」を第一に考えたかった麦。これに対し絹はあくまで「同じアンテナを共有できる生活」を送りたかったわけで、それができないなら意味が無いのです。

これは男女の違いというよりバックボーンの違いと言えばいいのでしょうか。

「ねぇねぇみんな知らないこんな素敵な事知ってる私たちって凄くない?」と盛り上がっている間は、それこそ花束みたいにキラキラしているんですけどもね。好きなものが同じだからとて相手をわかっているとは限らない。「趣味=人格」とはなり得ない訳ですから。でもそんな勘違いをさせてくれるのが恋たる所以なんでしょうけれど。