「小さき麦の花」大地と共に寄り添って生きる夫婦のお話

週末のレディースデイに観てきました。

「小さき麦の花」

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映画.com

中国北西部。貧しい農家の四男ヨウティエは中年になっても独身で三男の家に暮らす一家の厄介者。家から出したい三男は、内気で体に障害を持ち同じく家族の厄介者扱いである女性クイインとの見合いを持ちかける。やがて二人は結婚し、共に畑を耕し家を建て支え合う生活の中で互いに少しづつ愛情を深めていく。

寡黙で真面目なヨウティエ。平地から畑を耕し麦や野菜を育て、泥を練ってレンガをつくりますが、その全ての作業を黙々と愚直にすすめます。そして不自由な体でありながら出来る範囲で必死に夫のサポートをするクイイン。

朝日と共に働き出し、お昼には食事を分け合い、日暮れに小屋へと帰っていく。慎ましい暮らしの中、口数の少ない二人の距離が徐々に縮まっていくのがわかります。

ヨウティエは殆ど自己主張というものをしません。見合いの話から始まって、同じ血液型の豪農の為に血を抜かれる時も、兄の息子の結婚道具を運べと命じられた時も、農村改革の一環で空き家解体にお金が出るからと住み慣れた家を追い出された時も、決して「NO」とは言わないのです。

しかし、「借りた金は返す」「生き物は慈しむ」と、恐らく無学である彼なりの哲学がそこに見てとれます。

障害のせいかすぐに失禁をしてしまうクイイン。汚してしまった衣類を黙って洗ってあげるヨウティエ。失禁してもわからないように尻の隠れるロングコートを買ってやる彼の不器用だけど滲み出る優しさに、見合いの日から気づいていた事をポツリポツリとクイインは静かに伝えます。

愛情はあるけれどどこかぎこちなかった二人でしたが、うまく仕事をこなせないクイインにヨウティエがつい腹立ち紛れに怒鳴りつけてしまう場面があり、正直ちょっと驚いたものの、直後に「そんなに怒らないで」と妻の機嫌を取ろうと努める彼は微笑ましかったし、夫婦ってこんな風に近しくなっていくものだよなと感じました。

さていろんな解釈ができるラスト。私は、結局ヨウティエは妻との思い出ごと自分の農夫としてのアイデンティティーも含め全てを捨てて、愛馬(ロバです)と共に(都会へではなく)何処かに消え去った、という事かなと思いましたけど、どうでしょう。

中国で異例のヒットとなったらしい本作。農村回帰というかノマド的生き方が実体験の無い都会の若者に新鮮に映ったのでしょうか。

牧歌的というにはシビアで過酷な農村コミュニティーの暮らし。不条理とも言える状況で寄り添い暮らす夫婦の姿は、若い世代にも響いたのかもしれません。