もう何年も前に読んだ本。思い出深いのにどこをどう探しても見つからず、再度購入しました。今回は文庫本で。
ドイツに長く在住し日本語とドイツ語の両方で創作活動を続ける作者。ドイツを基盤として数多くの旅をする彼女が、その国々の言語に触れることによって、自分の母語から抜け出し、更にあらゆる外国語との間を行きつ戻りつするように、その時々の感覚を描写したエッセイ。
「母語以外の言語を使う」というならば、これまでも「移民文学」や「クレオール文学」というカテゴリーはあったけれど、外国語を使っているのは移民ばかりではないし、ましてそれがクレオール言語という事にもない。複雑化している世界を捉えてもっと大きな視点で母語の外へ出た状態を、作者は「エクソフォニー」と呼んでいます。
独自の感性と感覚で「言葉」に向き合い続けている作者。前回読んだのはいつ頃だったか。当時既に「ドイツ語でも小説を書いている人」としては認識していたけれど、本書にもあるように「ドイツ語で(ドイツ人のように)上手く書きたい」とか「ネイティブのようにドイツ語がペラペラになりたい」というのではなく、日本語とドイツ語の狭間にまるで旅をしているような自身を意識し、表現していきたい、とする作者の感性に何だか大きく衝撃を受けたものでした。
うすーく外国語を勉強していた自分としては、「いつかはこんな感覚を持つことができるのかな」と淡い期待を持っていたけれど、とんでも御座いませんでした。
英語ネイティブの人に「(ドイツ語で書いているなら)英語でも書けばいいのに」と言われ、作品一つを生み出すのにどれほどの熱量が必要かを考えると、そこまで英語を自身のものにしていないという旨が書かれたくだりがありました。
母語から出た空間を旅する、と言いながらも、きっと愚直にドイツ語に(そして日本語にも)対峙している作者の姿勢が伺えます。
どのエピソードも数ページにまとめられてサクサクと読め、こちらも旅のお供をしているよう。
唯一韓国に関する作者の意見には同意できない箇所もあって少々残念な気持ちに。欧米諸国に関する知識レベル並みに、お隣の国についても歴史を知ってもらえればな、と思いました。
作者のエッセイを読むといつもドイツ語の単語がちらほら登場するので、とっくに忘れかけていた記憶が蘇り懐かしい気分にさせてくれます。