「地球にちりばめられて」言葉や国境を越えて問うアイデンティティ

物凄く久しぶりの多和田葉子。Audibleで。

「地球にちりばめられて」 多和田葉子 著

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留学中に故郷の国が「消滅」してしまったHirukoは、ヨーロッパ大陸で生きて行く為「パンスカ」という独自の言語を作ってコミュニケーションを図っている。テレビ番組に出演した事をきっかけに言語学を研究する青年クヌートと知り合ったHirukoは、クヌートを含む数名の若者を道連れに、世界のどこかにいるはずの自分と同じ言語を話す人間を探す旅に出る。

SFのようにまるで「近未来」を描くような設定。母語を共有する者を探しながら、結局「母語とは何か」そして言語を通して「アイデンティティー」とは何か、を探求するという、まさにドイツに長く暮らし且つドイツ語で作品を生み出す著者らしいテーマが根底にあります。

これまで小説はあまり読んでおらず、エッセイを何冊か読んでいましたが、言葉に携わりながら、そこからとても客観的に自身を分析したように描写されていた印象があり、心に残った記憶があります。

独特な人物設定と言葉遊び。想像していた内容と違っていた為、実は一旦は手離した本作ですが、今回再度聴いてみて改めてこの不思議な世界を「面白く」感じました。

多言語を使う事によってかえって意識せざるを得ない「本来の自分」。母語を話すよりも外国語を話すことで他者を演じる、或いは演じ分ける方が楽だ、という台詞があり、これも興味深かったです。

祖国が消滅し、母国語(日本では母語=母国語だと思いますが)を共有する者がおらず、国境さえも曖昧になっている世界。グローバル化が提唱されて久しいですが、国に捉われず皆「地球人」という事になれば、まさにグローバリゼーションの実現となるのでしょうか。

先日YouTubeで、円安が続く現在、これからはもっと外資に頼らないと(移民を積極的に受け入れ土地もどんどん外国に買ってもらわなければ)日本はダメになる、と言うコメントを耳にしました。

本作のシチュエーションは極端ながらも、国や個人の在り方が強烈に問われているような気がします。

本作は著者三部作の第一弾という事で、これは続きを読むしかないかな…

ところで、遠い昔NHKのテレビドイツ語会話で、ドイツ在住の日本人小説家という事で紹介されていた記憶が。多分芥川賞受賞の前後だったように思います(記憶違いならごめんなさい)。当時から活躍されていたのでしょうが何分にもこちらの知識不足で、失礼ながら「あぁこんな人いるんだ」くらいにしかその時は思っていなかったものの、ドイツ在住と聞いて勝手に親近感だけ持っていました。今や世界的にも有名になった彼女。近年はノーベル賞候補にも名前が挙がっているとか。とってくれたら嬉しいな、と全く他人事ながら思うのでした。