「青い壺」奇跡の復刊からベストセラーになった幻の名作

とても久しぶりの有吉佐和子。昔の作品ながら昨年末頃からベストセラーになっていますね。原田ひ香の帯と共に平積みになっていた文庫本で。

「青い壺」 有吉佐和子 著

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青磁を制作する陶芸家の省造は、ある日会心の出来の美しい色合いの壺を焼き上げる。丁度来訪した馴染みの道具屋に早速買取を希望されるも(骨董に見せるためにわざわざ)古色を施すことを条件とされ、プライドを傷つけられた夫を気遣った省造の妻は、ありのままの壺を正当に評価してくれたデパートの営業に売り渡す。やがて省造の壺は長い年月を経て様々な人の手に渡っていく…

無名ではあるがひたむきに作品に向き合ってきた一人の陶芸家。その作品が彼の手元を離れ、様々な人の手に渡っていく中で、細工ではなく自然な古色を身につけていく。その10年の流れを13のエピソードで綴った物語です。

13話それぞれが短いながら味わい深く丁寧な印象。菁滋という陶芸品に強く惹かれた人もいれば、それほど興味も無いまま関わり合いになった人もいて、そういう中で壺そのものが歴史を重ね、更に芸術品としての風格も上がっていくのでしょう。

壺をめぐる話ではあるけれど、陶芸の難しい説明は殆ど出てこず、あくまで人間ドラマ。しかし作者の美術全体への敬意のようなものが感じられるようです。

読みすすめていくうちに最初に得た印象は、「昭和のホームドラマ」。昔TVで見たゆっくりしたテンポの台詞のやり取りを聞いているような感じがあります。

本作は初版が昭和52年ですが、戦争中の話が何らかの形で常に出てくることを考えるると、時代設定は昭和20年から40年代くらいでしょうか。二世帯同居というのも当時はごく当たり前ではあった家族の在り方(「嫁・姑」問題も当たり前のようにあり)にも触れられていて、ここらあたりも含めて若い人達にとっては新鮮に映り、昨今のレトロブームも追い風になってベストセラーに繋がったのかも(勿論原田ひ香の帯効果はあったと思いますが)。

でもやはり1話から最終話に繋がる流れは素晴らしく、時代を超えても変わらない良さが感じられるようです。「あぁ小説読んだ」という気持ちにさせてくれた一冊。知らなかった傑作に出会えたのでとっても得した気分になりました。