「天国と地獄」で再び黒澤+ミフネ作品を観る

黒澤監督+三船敏郎を再び。タイトルは知っていたけれどきちんと観たことがなかったので。アマプラで鑑賞しました。

「天国と地獄」

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製靴会社の役員権藤(三船敏郎)は、自分の息子と間違えられて運転手の息子が誘拐された事を知る。身代金は3000万円。しかし権藤の手元にある大金は、社内の実権を握るべく自社株を買い占める為自宅を抵当にして用立てたものであり、これを使えば地位も財産も全て失うことになる。苦悩の末、犯人の要求通りに金を渡すことを決意した権藤は、犯人の指示通りに金を受け渡し運転手の子供は無事に解放されたものの、身代金と共に犯人は逃走してしまう。

エド・マクベインの小説が原案。映画の舞台は昭和30年代の横浜。工員から成り上がった権藤が住む高台の邸宅は、川の向こう岸にあるバラック密集地帯から見ると、まるで別世界のようでまさに資本主義の象徴のよう。

それを日々目にすることで妬みと憎悪を募らせていた、というのが犯人の動機。

リスクを冒してまで犯罪に手を染める理由としては弱いかな、と思われましたが、緻密に犯人を突き止める刑事たちの追跡や、まだ戦後の空気が色濃く反映されている巣窟のような情景など、リアルさを追求した映像の迫力の方が上回りました。

更に、当時まだ無名だった犯人役の山崎努の独白に鬼気迫るものがあり、動機の弱さを力技?でねじ伏せたような感があります。

冒頭からやたら態度が大きく(声も大きい)偉そうな印象だったのに、実は人情に弱く苦労人で人望が厚い、という役どころの三船敏郎もなかなかいい味でした。

この他、のちに名優となるような人が「新聞記者その他大勢」のような扱いで出演しているのを見るのも興味深いです。

憎しみの対象としていた富を持つ権藤は、裸一貫となってもやり直しを遂げており、結局逆恨みまでして晴らそうとした犯人の恨みは、最後まで晴れることができなかった、という皮肉が込められたラストも良かった。

高度成長を駆け上がった者と取りこぼされた者。当時の日本の暗部が強烈に描かれた作品でした。