「落下の解剖学」法廷劇から見る人間ドラマ

久しぶりに誰もいない週末という事で思い立って映画館へ。先ずは昨年のカンヌでの受賞作。

「落下の解剖学」

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映画.com

人里から離れた雪山にある山荘。小説家であるサンドラはインタビューに来た学生に対応するも別室から聞こえる夫が流す大音量の音楽の為中断。そんな中視覚障害を持つ息子が犬の散歩から帰って来ると父親が屋外で既に息絶えて倒れているのを発見、すぐさま母親を呼び警察を呼ぶ事態へ。操作の結果他殺の疑いが生じ妻に嫌疑がかかる。

雪の中発見された遺体を巡り繰り広げられる裁判。果たして夫は自殺なのか他殺なのか。

本作、夫の死の真相を明らかにするサスペンスドラマ…の様相ではありますが、実際は夫と妻、そして息子に関する家族関係を深掘りしていくような人間ドラマと言えます。長い長い(本当に本作の中で相当な時間が割かれている)法廷シーンでは、被疑者を犯人として追求する検察側の執拗な追求が繰り返し映し出されますが、事件を解き明かす、というよりもむしろ様々な証拠や証言から浮き彫りにされる夫婦の関係性が主軸となっているようです。

なので裁判の判決は下りたとしても、「本当はどうなの?」という疑問は依然として残り、その余韻がいつまでも残るような映画です。

小説家として既に数冊発表して「成功」していると言える妻。本当は自分も小説家を目指しながらも(フランス映画を見ているとやたら小説家になりたい人が出て来るけれど、フランス人ってそんなに小説家になりたいんですかね?)何も書き上げられないまま家事や息子の世話に追われる夫。現状を打破すべく母国に引き上げて来たフランス人の夫とドイツ人の妻の会話は英語。立場の違いや言語の違いでもはや理解し合えず破綻していた夫婦であった事は、実際の法廷で(最初は頑張ってフランス語を話していたけれど)途中から英語で話し出したサンドラの姿に象徴されているように思います。

家事も子育ても夫がほぼ全面的に負担していたような暮らしでありながら、最終的な息子の証言は母親に有利なもの。まるで嘘の証言にも思えてきて。これってどういう事なんだろう…

裁判の中でも証拠や証言は「事実のほんの一部を切り取ったものにすぎない」と言われていましたが、映像に表れていないところで夫婦の実像とはもっと複雑なのだよ、という事なのかな、とも思いました。

とは言っても2時間強の本作。途中眠たくなる事もあり、もう少しコンパクトでも良かったかなというのが正直な感想。まぁでもカンヌらしい作品のようでもありました。