「浮き雲」悪い事ばかりは続かないよと思いたい

再びカウリスマキ監督作品。これもアマプラで。

「浮き雲」

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映画.com

路面電車の運転手ラウリと古いレストランの給仕長イロナは、ローンを抱えて貧しいながらも犬と共に仲良く暮らす夫婦。不況のあおりを受けて突然解雇されたラウリ同様に、経営不振でオーナーが変わったレストランから解雇となったイロナ、二人揃って職探しを始めるが思うようにはすすまず…

前回観たのははこちら。

minonoblog.hatenablog.com

相変わらずセリフの少ない登場人物たち。それでも主役である夫婦が、言葉少ないながらお互いに気遣い労わりあって暮らしているのがわかり、導入からとても微笑ましく感じられます。

仕事帰りに夫の運転するバスに乗り込み運転席の後ろからそっとキスする妻(夫は憮然と前を向いたまま運転続行)。帰宅した妻を目隠し買ったばかりのTVを見せてビックリさせてやろうとする夫(ローンが増えるだけで全く嬉しそうではない妻ではあるけれど)。何だかチグハグなようでどことなくしっくりいっている、この夫婦に対する印象は映画全体に感じるものでもあります。

登場人物にホッとする感覚はその言動からくるだけでなく色使いからも。前回観た「マッチ工場の少女」ではモノトーンを思わせる雰囲気でしたが(それだけに主人公の女性が選んだドレスが際立った)、今回妻のコートが赤(愛用してます)、路面電車がブルーと、全体的に抑えたトーンながらも重暗い印象にならないのは、ところどころにあるこの「プチカラフルさ」も手伝っているのかなと思います。

とは言え、無表情でとぼけたようなやり取りが、やはり一番の面白さなのでは。職探しで忙しい筈なのに、クロスワードに熱中する夫に答えを求められて(仏頂面ではあるけれど)教えてあげたり、車を売って作ったなけなしのお金をギャンブルでパーにしてしまった夫に黙って寄り添ったり。今回もカウリスマキ監督作品常連のカティ・オウティネンが妻役でいい味出してます。

人間ってダメな時は不思議とダメな事が続いてしまうもの。しかもそんな時ほど自ら悪い方向へ行ってしまう時も。もう「笑うしかないよね」と言いたくなる場面を無表情で演じている彼らを観て、こちらが思わず笑ってしまう、というところでしょうか。

夫婦の日常に(説明は無いけれど恐らくは)亡くなった息子の存在があったり、元レストランオーナーや元同僚たちの助けがあったり、と本作は「人との繋がり」のようなものを彷彿とさせ、ちょっと人情ドラマ的な要素も。少しブラックだった「マッチ工場…」と比べると、ほっこりしたラストも後味良く観られた作品でした。