「雨月物語」に甲斐荘の世界観を垣間見る

先日の美術展で鑑賞した甲斐荘楠音が衣装担当した映画。溝口健二監督作品を全編観るのは多分初めて。アマプラで。

雨月物語

映画.com

舞台は戦国時代の琵琶湖沿岸部の村。戦乱の機に乗じ金儲けを企む貧しい陶工の源十郎(森雅之)と、侍になり立身出世を目論む義弟の藤兵衛。それぞれに家族を連れ都を目指す途中、源十郎の妻(田中絹代)は子供と共に戦火を逃れ引き返し、藤兵衛は妻を捨てて戦の中に紛れ込む。やがて源十郎は若狭と名乗る美女(京マチ子)から陶器の注文を受け誘われるままに屋敷に入っていくが…

1953年公開の作品。勿論白黒ではありますが光と影を巧みに使った画面から、戦国時代の情景だけでなく、表情に滲み出る人間の内面が見て取れるようです。

例の甲斐荘が担当したとする衣装は、リアリティを重視する監督の意向で、時代考証を基に当時の町人の様子を再現されているようです。それでも謎の美女が手にする着物の数々は、白黒でもわかる艶やかさで、他の貧しい身なりとは際立って対比させながらこの世の物とは思えない世界を作り出し、ここでも甲斐荘の美意識を見たような気がします。

こちらは先日の美術展の様子。

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映画自体は欲望に翻弄された男の末路、となるのでしょうか。男達はひたすら情けなく女達はひたすら哀れに映りました。戦のシーンばかりフォーカスされがちな戦国ですが、庶民の生活は混沌としてまさにカオスだったのでしょう。

不安定で暗い戦国の暮らしに妖艶で幻想的な世界を投じた本作は、やはり甲斐荘の世界観が大きく貢献していたように思われます。