「甲斐荘楠音の全貌」あやしい絵だけじゃない多様な表現を

今年二度目の東京ステーションギャラリー。こじんまりとして素敵な所です。今回は甲斐荘楠音の展示を。

甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)は、大正から昭和初期にかけて活動した日本画家で、当初高い評価を得たものの、1940年頃には画業を中断し映画業界に転身しており、しかもそこでも活躍を見せているというとても多才な人物。上図の絵「横櫛」がメインビジュアルに採用された2年前の「あやしい絵展」でその知名度が一気に上がった事から、「あやしさ」が先行しているイメージがあります(昔読んだ岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」の表紙もこの「横櫛」でした。あれも怖い話でしたが)。今回もおどろおどろしい展示を想像していたのですが、予想に反し様々な角度から女性美を追求した作品を鑑賞することができました。

少年時代から影響を受けたミケランジェロレオナルド・ダ・ヴィンチなどの西洋美術を取り込み独自の画風を確立し注目された甲斐荘楠音。一方で幼い頃から歌舞伎を楽しみ中でも女形に非常に関心を抱き、遂には自ら女装してしまうのです。

彼の美人画には自身の女装した際の表情がうかがえて、それもとても興味深いところ。

一生を独身で通した甲斐荘はホモセクシャルであったという噂もあるらしいのですが、本展示では仲間たちと嬉々として女装し歌舞伎の場面を演じてみせている写真も多く見られ、もう性別など軽々と乗り越えている潔ささえ感じます。

展示の中には、転身した映画業界で担当した時代劇衣装の数々も並んでおり、時代劇映画全盛期をどれだけ演出してきたかがわかります。風俗考証と衣装を担当した、溝口健二監督の「雨月物語」では、アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされており、映画界でも世界的に実績を残しているんですね。

画家、映画人、演劇を愛する趣味人と多くの顔を見せてくれる甲斐荘。独自の美意識を追求しあらゆる芸術を取り込む表現者としての作品を楽しめる展示会でした。