「ついでにジェントルメン」世の中と微妙にズレた人たちのコミカルなストーリー

実は…ついこのあいだまで「柚木麻子」と「柚月裕子」を頭の中で同一視していました。いやぁ凄い振り幅の大きい作家さんだなぁと(笑)だってあの「孤狼の血」を書きながら一方でコメディタッチの本を続々と…多分過去のツイッターでそんな事呟いてしまった記憶が…あぁ恥ずかし…今回は柚木麻子氏の方です。Audibleで。

「ついでにジェントルメン」 柚木麻子 著

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編集者に執拗にダメ出しされる新人作家がいつもの如く酷評され気落ちしたところに話しかけて来たのは菊池寛の幽霊?… ベストセラーの不倫小説の作家が舞台のホテルを久しぶりに再訪すると様変わりして…意図的に女性車両に乗り込んだ主人公が思わぬ異次元の世界に飛ばされて…などなど。いずれも社会全般からは何故か「歯車が噛み合わない」人々が登場する7編の短編集。

本著者の作品と言えば過去には「BUTTER」「マジカルグランマ」を読んでいた私(多分その頃はまだ「孤狼の血」の人だ!」と思っていたはず)。どちらも面白かったんだけれど最初にテンポ良く引き込まれた割りには、エンディングは印象が薄かったような記憶があります。

今回は短編集という事でいずれも中弛みする事なく、最後までテンポ良く読み切る事ができました。

本作を巡る著者のインタビューを目にしたところ、「家事や育児を瑣末な事として捉えてほしくない」というコメントが。執筆当時子育て真っ最中だった著者がリアルに感じた事の一つでしょう。

本作では家事や育児に悩む人ばかりをメインに置いている訳ではありません。何事も当事者でない人から見ると些細なものに写りがちである世の中のよくある光景を、少し風変わりな「当事者」にフォーカスを当てて描かれた作品、と言えるのではないでしょうか。

幽霊が出てきたりゲームの世界に巻き込まれたりと少々突飛な状況設定ではあるけれど、いずれも微笑ましいストーリーに纏められているのは著者ならでは。とりいそぎ今まできちんと読んでいなかった菊池寛を早速読んでみたくなりました。