「月の立つ林で」月にまつわる5つの優しい話

気分が少々「しんどいな」と感じる時に読みたくなる作家さん。期待を裏切らない読了感でした。Audibleで。

「月の立つ林で」青山美智子 著

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長年勤めた病院を辞めるも就活がままならない元看護師、芸人の夢を捨てきれない男、結婚を控えた娘を巡り寂しさを感じるバイク整備士、母親との不仲に悩み自立を目指す女子高校生、家庭と仕事のバランスが取れずストレスを抱えるアクセサリー作家…それぞれ違う日々を送る5人が共通して聴いているのは、タケトリ・オキナという男性のポッドキャスト「ツキない話」だった。

青山美智子氏、これまで2冊読んでました。

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全く違う人たちが、何らか共通の事柄に出会う事によって、其々にまつわるストーリーがゆっくり動き出すという、これもこの著者の作品の「共通点」でしょうか。

今回、同じ月のお話のポッドキャストを聴いている事に加え、劇団員として役者をしている佑樹との存在が5つの話に共通して現れます。5つの各章の主人公がどちらかと言えば目立たない静かな「月」のような印象の人たちとすれば、この佑樹は明るく常に周囲の目を惹き誰からも愛されるまさに「太陽」のような存在。時にはダイレクトに時には微かな繋がりで彼らは佑樹の影響を受けます。

うまくいく時もそうでない時も、人は誰かしらとの関わり合いの中で生きているのだ、と言うことを今更ながら気づかせてくれる本作。

本作でも登場人物たちは皆優しく柔らかい心を持って、他人の指摘や状況を理解できる人達で、「もう少し拗らせてもいいのに」と思いたくなるくらい。でも拗らせれば拗らせるほど生きづらくなる事もわかるだけに、ラクに生きていけるよう落とし所を用意してあげている著者の優しい目線も感じられるのです。

常々漠然と「月のような女性でありたい」と願いつつ、理想と程遠く歳だけ重ねてしまった自分としては、何所か誰かの夜道をそっと照らすように人の役に立つような生き方をする彼らは、とても眩しく思われます。