「赤と青とエスキース」お洒落な表紙以上に素敵なお話でした

本屋大賞シリーズで。気楽にAudibleで耳読書、のつもりでしたが、想像していた以上に読後感が良かったです。

「赤と青とエスキース」 青山美智子 著

赤と青とエスキース

引用:Amazon.co.jp

エスキースとは、フランス語(esquisse)でスケッチや下絵の事。メルボルンの画家が赤と青だけを使って描いた「エスキート」という題の絵画。この絵に直接的に或いは間接的に縁を持つ人々を時空や場所を超えて4つの章に分けてまとめた物語です。

メルボルン留学生と現地日系青年のカップル、額縁職人、漫画作家の師匠と弟子、一度別れ又再会する男女…

章ごとに軸となる人物(たち)が異なりその度に設定が変わるのですが、前述の通りスケッチ一枚に込められた思いが色々なストーリーを生んで、綺麗にラストに繋がります。それぞれの場面に出てくる人物や内面の描写も丁寧。読後に清涼感があったのは登場人物のいずれにも嫌味なところがなかったからかもしれません。

それ以上に作品を通して絵画に対する愛情が感じられるんですね。画家だけでなく画商や額縁商まで登場するのですが、単にビジネスを超えて絵に真剣に対峙する姿がとても印象深い。

作者はもしや芸術系の人なのかな、と略歴をググって見ましたが、文系で本好きの女性だったようです。本作で額縁屋さんまでスポットが当てられ又その真摯な仕事ぶりも詳細に描かれているので、てっきり美術関係の人では、と思ってしまいました。

一貫してトゲやアクのようなものがなく穏やかさや温かみが感じられるのは、舞台がメルボルンだからなのか、とも思いましたが、どうやらこの作家さんの特徴のようです。お探し物は図書室まで

引用:ポプラ社公式

書評を見ても「ほっこり」や「あたたかい」といったコメントが多くあり、著者の世界観がうかがえます。早速他の著作も読んでみたくなりました。残念ながらAudibleにもKindleにも見つけられませんでしたが。

本作のテーマになっているエスキート。赤と青の二色の濃淡で描かれている、という設定ですが、一体どんな風な絵なんだろうとフィクションながらそれを囲った額縁と共に空想してみるのも楽しいです。

ストーリーが締めくくられる最後のエピローグ。やや長いな、と感じられて少々残念な気もしたのですが、ハッピーエンドは嫌いじゃないので全体としてはやはり良い印象でした。

実はウチの娘も留学予定。本作のような素敵な出会いがあるのかしら…と余計なところにまで思いを馳せるのでありました。