「光のとこにいてね」長い時間をかけて出会いと別れを繰り返す女性二人の物語

以前読んで気に入っていた作家さんを再びAudibleで。

「光のとこにいてね」 一穂ミチ 著

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医師の父を持ちエスカレート式の女子校に通い不自由なく暮らす小学生の結珠(ゆず)。ある日母に連れられ古びた団地に行くがそこでシングルマザーと暮らす同い年の少女、果遠(かのん)と出会う。全く境遇の違う二人だが意気投合し僅かな時間を共に過ごすようになるが、些細な行き違いで離ればなれになり、次に再会したのは進学した高校一年の教室だった。

前に読んだのは短編集でした。

minonoblog.hatenablog.com

物語が3つの章立てになっていますが、1つの章の中で結珠と果遠が交互に一人称で語り、耳だけで追っているので最初少し戸惑いがありました。

小さな子供だった二人が、幼いながらそれぞれ家庭に問題を抱え、それに傷つきながら成長し、その過程で出会いと別れを繰り返します。

現実に直面している辛さから逃れるように、二人の間にある空気はとてもピュアで透明感があるように思われます。

やがてそれぞれに夫を持ち家庭を築きながらも、会わずにはいられない二人。

これは友情なのかそれとも愛情なのか。小学生、高校生、成人と、時を経るごとに微妙なラインを行きつ戻りつしているような彼女たちですが、光の中を疾走するようなスピードでラストへ向かっていきます。

家族、特に母親に縁の薄い二人だっただけに、互いの家庭を大事にするエンディングであってほしかったな、と思うし、前述した「微妙なライン」が微妙なままに終わった方が、二人の少し浮世離れしたような透明さが損なわれなかったような気がします。

しかしそんな事は分かりつつも、これまで気持ちを抑えて生きてきた二人に、真っ直ぐ気持ちに添わせて歩かせてやりたい、とする著者の思いが投影されているのかも、とも思われました。

少し複雑な読後感ではありましたが、読者がどうとでも捉えられるような最後のシーン、自然に情景が目の前に広がるような描写は見事だな、と感じました。