「スモールワールズ」(Audible)

少し前に読んでいた本。短編小説集をAudibleで。

「スモールワールズ」一穂ミチ

スモールワールズ

画像引用:講談社BOOK倶楽部

Audibleではあったけど表紙の雰囲気に惹かれて全く予備知識なしに読んでみました。6つの短編がどこか少し繋がった形で読み継がれるようになっているオムニバス。ちなみに2022年本屋大賞第3位ですね。「本屋大賞」だから、と毎年わざわざ買う事はなかったけれど、気軽に読めるのが耳読の良いところ。ついでながら多分普段なら読まなさそうな大賞の「同志少女よ、敵を撃て」も読んでしまいましたよ(笑)。このまま本屋大賞シリーズ読破できるかな?Audible恐るべし。

さて、「スモールワールズ」の著者は元々BL小説で有名な作家で、本著は一般文芸で初の文庫本だそう。直木賞候補にもなっていましたね。

いろいろと話題の作品ですが、読後の感想としては、「静かに深く」心に刺さるイメージ。こういう夫婦、兄弟、親子、何気にいそうだな、と思いながら読み進めると、後半どんでん返し的なオチがついてきます。

そういう意味では中でもミステリーの味わいのある「ピクニック」が日本推理作家協会賞短編部門にノミネートされたのも頷けます。あぁそうなるかぁ…と、ドラマを見るような感覚でした。

6つの短編の中で私が好きだったのは「魔王の帰還

元高校球児で暴力事件が元で転校した過去を持つ弟、結婚して出て行った筈が何故か戻ってきている何もかも規格外にスケールの大きい「魔王」の姉、家族とのトラブルが原因で転校してきた女の子。それぞれに問題を抱えた3人を中心に進むお話ですが、この「魔王」なお姉ちゃんが色々と豪快すぎてユニーク。小さい事に頓着せず、男勝りにトラックを運転し「ぬりかべ」のような背中を持つ姉ちゃんは、図体は大きいけれど気の小さいところのある弟よりも遥かに「男前」。

でもこの男前な姉ちゃんが本当はとても優しくて暖かいことがわかるのです。いや、この「優しさ」で言うなら、弟君が過去に起こした暴力も彼の「優しい」面があっての事。

それぞれに持っている心の柔らかさが、読んでいて沁みてくるような感じ。電車の中だったんですがラストの方で泣きそうになって困ってしまった(笑)。読後は爽やかな気分にさせてくれます。

先に挙げた「ピクニック」以外にも、円満夫婦を装う妻の隠された行いや、被害者家族と加害者との文通の話など、老人から子供まで様々な組み合わせで描かれている6編。ミステリー要素も含めて楽しめました。次回作にも期待したいな(一般文芸の方で)。