「百年の子」学年誌を通して語られる祖母・母・孫娘のお話

Audibleでオススメに上がって来たので。本屋さんの話が続いたので今度は出版社のお話を。先入観なく選んだのが良かったようです。

「百年の子」 古内一絵 著

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明日花は老舗出版社文林館でファッション誌編集部に配属していたが、突然「創業百周年記念 学年誌創刊百年企画チーム」という意にそぐわない部署に異動を命じられる。かつて自社の看板であった児童向け学年誌の歴史を調べて行くうちに、今は認知症となってしまった自分の祖母が戦時中学年誌の編集に携わっていた事を偶然知るが、祖母はその事を明日花には言わないように頼まれていたと母親から知らされる。何故祖母は孫が自身と同じ出版社に勤めている事を隠していたのか…

本作、「小学○年生」で知られる小学館がモデル。著者が綿密に調査した内容を基に作り上げたオリジナル小説だそうです。

作品の中ではお小遣いを握りしめて学年誌を買いに行った子供時代の記憶を語るシーンがありましたが、私の場合は(お小遣い制ではなかったので)いつも店頭に出る日に父が勤め帰りに本屋に立ち寄って買って帰って来てくれたものでした。(この後中学になると旺文社の「中○時代」に移行したのでしたっけ)。

しかし2000年代に入ると情報や趣味嗜好の多様化などの影響もあって、小学館学年誌は高学年から次々と休刊。今は小学一年生と幼稚園生向け雑誌のみ刊行されているようです。そう言えば子供達が小さい頃には既に「小学○年生」が頭に思い浮かぶ事は残念ながらありませんでした。

本作でも著者のリサーチのおかげで出版社の裏側を覗くことができ、特に戦前・戦中からの児童向け学年誌に何故老舗出版社がこだわって来たのか、を垣間見ることができます。それだけに現在その殆どが休刊されている事を思うと、残酷なようで時代の流れを感じます。

女性の働きづらさや生きづらさ、本への関わり方、子供たちの在り方、戦争の過酷さ。百年のスパンの中でそれらを通して、もう一つの本書の柱である母娘の関係性が語られており、大河ドラマを一つ身終えたような気にさせてくれました。

本作「オーディオファースト」としてAudible先行で発表された作品の一つ。石田ひかりさんの声も優しく耳に心地良く響きました。彼女がインタビューで言っていたように、「読む」と「聴く」とで違った味わい方ができるもの。Audibleの積極的な企画に敬意を評しつつこれからも楽しませてもらおうと思います。