「推し、燃ゆ」でリアルなオタ活を垣間見る

芥川賞作品はわかりにくい、と言われますがタイトルの良さに引かれて。Audibleで。

「推し、燃ゆ」 宇佐美りん著

引用:Amazon.co.jp

タイトルが良い、と言ったけれど、書き出しも良い。「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」小説は書き出しが全て、と言うからその意味でもインパクトは大きい。何せ各著名人から絶賛の声。期待は自然と高くなります。。

タイトルからも連想されるように、高校生である主人公のアイドルへの「推し活」を通した生活を追う形でお話は進んでいきます。

推し活と言っても色々ありますが、彼女の場合単なるアイドルの追っかけを超えた相当のハイレベル。日常生活もままならず諸々の高校も中退する事に。

ここで言う日常生活を破綻させる諸々の事情の中には、推し活だけでなく彼女自身抱える病気があります。恐らく発達障害とか適応障害とかの類ではないか、と思われます。

恐らく、と言ったのは小説の中でも詳しい診断名は出されていません。病名だけでなく、推しが殴ったファンというのは誰なのか、そもそも本当に殴っているのか、など不明なままである事が多々あります。ついでに言えばラストも曖昧なので色々と解釈も分かれるでしょう。

何らかの障害を抱えながらやり場のない日々を推し活で満たしていく主人公。勉強も日常もごく普通な事が出来ない状態への周囲や自身の苛立ちやのめり込んでいく「アイドル追っかけ」行為の描写は赤裸々なので、痛さや辛さは感じ取れます。

しかし一方でそういう生活をしていながら主人公がどこか一点常に冷めているようにも感じられます。衝動的にモノを投げつける場面で、(後で拾い易い)綿棒の箱を無意識に選んでいる(自身もそれに気づき苦笑していますが)のも象徴的です。

推しを追いかける事が全てだった主人公が、追いかける対象を失くしてそれでも生活していくことを「成長」と見ることもできるのかもしれませんが、そこまで彼女が「変化」したとは思われない。周囲から隔たりのある自分を終始客観視しているように感じられます。最終的に彼女の生き方は根本的には変わらないのでしょう。

病気と診断された子供に一人暮らしさせるくだりがあるのも不自然。それだけ日常生活が破綻して家族も大きく迷惑を受けているという事なんでしょうが、現実的でないような気も。。個人的にはそもそも主人公に障害はなくても、いや無い方がストーリー的にはもっとシンプルに推し活に救いを求める女の子のリアルさが伝わる気がしましたが、これは好みの問題でしょうか。抱える闇が深くなっているのは確かですが。

何れにしても描写は緻密なくらい細かい。これが好きな人には刺さるかな。レビューに「オタクってみんなこんななの?」みたいなコメントがありましたが、ごく普通にオタ活楽しんでいる人はいっぱいいますよ。誤解のなきよう。