「女二人のニューギニア」ジャングル奥地での奮闘ぶりが目に浮かぶ面白さ

以前購入して読んだ雑誌「スピン」創刊号。

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そこで「絶版本書店」のコーナーに紹介されていた本を早速購入(絶版が危惧されただけあって非常にレトロな装丁)、数ヶ月寝かした後ようやく読みました

「女二人のニューギニア」 有吉佐和子 著

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有吉佐和子といえば「華岡青洲の妻」がベストセラー。私はこの作品しか読んでいないけれど、名医をめぐる嫁と姑の内に秘めた確執に女のドロッとしたものを見たような記憶が。

その著者が、このベストセラーを出した翌年、友人である文化人類学者畑中幸子氏の「ほんまにええとこやで、あんたも来てみ」と言う気楽な一言に応じ、インドネシアへの取材旅行の帰路、ニューギニアまで畑中氏を訪ねた際の顛末記が本書。

二人は和歌山を同郷とする長い付き合い。旧友の言葉を信じ、日頃行き慣れているインドネシアなどアジア諸国をイメージして安易に誘いに乗ってしまった有吉氏の、文字通り「痛い」思いをする体験が綴られています。

何と言っても畑中氏の豪傑ぶりが素晴らしい。学者としての仕事とは言え、単身未開の地でフィールドワークを行い、時に通訳を無視して直接原住民に関西弁でまくし立て、ネイティブの男たちを従わせているのです。

古くから見慣れている筈の友人の意外な一面に驚く有吉氏。果ては僻地で何の役にも立てないばかりか足を引っ張る立場の有吉氏まで、畑中氏の剣幕と怒号に晒される羽目に。

何日も歩き詰めでやっと辿り着いたジャングルの真ん中で慣れない非文明な暮らしに右往左往する小説家と、小柄ながらネイティブ男性相手に一歩も引かない逞しい学者。二人のデコボココンビぶりに、まるで漫才を見ているような楽しさを感じます。

著者は、ジャングルで過ごした約1カ月の日常を事細かに記述していますが、ニューギニアの社会や文明などの分野に割って入ることを良しとしていません。それは「一人の文化人類学者が生命を賭して調査している聖域」だから、門外漢である一作家が書き立てるのは「学問に対する冒涜」であり、真摯にフィールドワークに向き合う「畑中氏に対しても失礼」としているからです。

この潔さが本書をシンプルに楽しい体験記として際立たせているのだと思います。

さて、いつまで続くかと思われた有吉氏のジャングル滞在は呆気ない形で終わりますが、帰国後も著者のドラマティックな体験はしばし続くのが面白いところ。

タイトルから連想されるドタバタぶりを、無駄のないユーモアを交えた文章で綴る「小説家」の力を感じる作品でした。