「ミセス・ハリス、パリへ行く」幾つになっても美しいものに素直に感動できる人は素敵なのです

とってもチャーミングな女性のお話。「良い人」ばかりが出てくるのだけれどダラダラ感が無い、後味の良い映画でした。

「ミセス・ハリス、パリへ行く」

映画.com

第二次大戦後のロンドン。家政婦のミセス・ハリスは夫戦死の訃報後も気丈に仕事をこなす毎日。ある日勤め先で見たドレスに心奪われ、特上の一着を入手すべく一人パリへ向かった彼女は、運良く憧れディオールの本店に。その気さくな人柄で周囲の人々を巻き込みながら果たして華やかなドレスを手に入れる事が出来るのか。

コツコツ真面目に働く気立の良さが取り柄の主人公が、人生で初めて華やかなモノに出会い手に入れようと悪戦苦闘。その姿を表すように、地味で質素な彼女の住む部屋も街並みもグレートーンに近く、対してパリはカラフルで鮮やかに描かれています。

最初は鮮やかな装いに目を奪われた彼女が、ドレス作成の工程で一着一着にどれだけの職人の技が込められているか、そしてその職人や労働者が不遇である現状を知ります。

メゾン・ディオールでモデルが着るオートクチュールもフラワーマーケットの花々もとてつもなく美しいのだけれど、それと対比するように、労働者の鬱積を示すが如く、通りはゴミで溢れかえっているのです。

持ち前の優しさと芯の強さで職人達を鼓舞し、ディオール社長に直談判するくだりも良い。これ、主人公がフランス人だったらゴリゴリのストライキになり血生臭い争いになっていたかも?

フランス人をプライドが高くて理論派のエリートに、イギリス人をウィットに富んだ市井の人に設定しているのも面白いところ。

若い男女の恋の後押しをしつつ、自身もスマートで紳士な伯爵の甘い言葉を囁かれるのですが、そこで簡単に恋に落ちないのですね。

煌びやかな世界で甘い「憧れ」を追い求める事に終わらず、自立や自己肯定感も手に入れる彼女。最後は良きパートナーにも恵まれそうな予感が。最強ではありませんか。

主役のレスリー・マンヴィルは愛すべきミセスを演じていて最後まで好感が持てる女優さん。そして、ストーリーの面白さで見逃しそうになったけれど、ディオールの嫌味なマネジャーをイザベル・ユペールが演じています。ベテランになってもコンスタントに作品に出ている彼女。本作でも一癖ある女性を演じて存在感を見せています(個人的には「天国の門」の印象がいまだに忘れられないのですが)。

撮影の為に1950年代のメゾン・ディオールを忠実に再現したそう。家具やアクセサリーの一部などはディオール社が提供したらしいので、素敵なドレスと共に楽しむ事ができます。