「むらさきのスカートの女」曖昧な存在に見え隠れする不思議な狂気

何だかホラーっぽいタイトルに惹かれて。内容はホラーというより奇妙な印象でした。芥川賞受賞作。Audibleで。

「むらさきのスカートの女」 今村夏子 著

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近所に住みいつも紫色のスカートを穿いていることから「むらさきのスカートの女」と呼ばれる一風変わった女性に興味を持つ「わたし」は、彼女と友達になりたい一心でその日常を徹底的に掌握するようになり、更に近づく為自分の勤めるホテルの清掃員に応募するよう仕向ける。職場が同じになった事で距離が近づくかと思いきや、当初ぎこちなかったむらさきのスカートの女は次第に周囲に溶け込み上司や先輩達と良好な関係を持つようになる一方で、わたしは一向に近づく事ができない。そんな中むらさきのスカートの女が上司と深い仲ではないかという噂が広まる。

終始「わたし」の一人称で語られる物語。わたしの興味の対象である「むらさきのスカートの女」は、いつも髪はボサボサで真っ黒の爪をしており指に間からボロボロとこぼしながらクリームパンを貪る、何とも不潔な印象の女性。だが「わたし」はまるでストーカーのようにこの女性の行動を執拗に追い求め、病的なまでに把握しています。

この「むらさきのスカートの女」がその変わった風貌からいかに近所でも有名な存在であるかが徹底的に「わたし」によって語られるのですが、彼女へのその異様な執着によって「わたし」の異常性が浮き彫りにされていきます。

定職もなくいつも一人公園に決まった時間を過ごす「むらさきのスカートの女」が、職場という新しい居場所を得られたことをきっかけに、人付き合いが上手くなり、化粧やネイルを施し果ては不倫の噂まで流れるように。

これとは対照的に「わたし」は実は職場では常に浮いた存在で、誰からも相手にされておらず、むしろ「わたし」の方が孤独な人物であることがわかります。

最後まで読んでみたものの何だか狐につままれたような感覚。途中からひょっとしたらこれは「わたし」の妄想なのでは?とも思われてくるくらい。

この不思議な作品に様々な解説が見られ、「わたし」と「むらさきのスカートの女」は同一人物なのでは、という意見もありました(それは無いかなとは思いますが)。

そもそも表紙もむらさきのスカートじゃないし足は四本出てるし…これが示唆するところも色々と説がありましたが、正直どれが正解かはわかりません。

「人間の実存」や「存在の曖昧さ」がテーマの本作。これほど読者を混乱させ、著者としてはしてやったり、というところでしょうか。