「春のこわいもの」6つの短編に潜む怖さは感じられるか?

本作者は、かなり以前に「乳と卵」を読んだきり。久しぶりに、と思いAudibleで。

「春のこわいもの」 川上未映子 著

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感染症の大流行が間近に迫る東京。入院中の病室でまるで老婆になったかのような妄想を抱きつつ手紙を書く若い女性、ベッドで殆どの寝たきりになりながら人生を回顧する老女、モデルやアイドルが参加する「ギャラ飲み」を志願し面接を受けにいく女性、日常の鬱憤を紛らすようにSNSで特定の小説家を攻撃する中年女性、失くした手紙を探しに差出人である女友達と深夜の学校に忍び込む男子高校生、昔同居していた親友との再会で過去の出来事を思い出す小説家… 都会で生きる6人を描いた短編集。

6つの話とも、コロナがパンデミックになる直前を設定されており、季節で言うと春頃のようです。ただでも孤独感や閉塞感を持って生きている都会人。この後感染症の蔓延が、社会全体で人々のコミュニケーションを途絶えさせるのですが、「敢えて」そこに至る前の状態の既に「孤立化」している人たちを描いているのは面白いなと思いました。

「こわいもの」とあるけれど、ホラーでは無いしサスペンス要素もありません。敢えて言えば誰でも内面に巣食っているような「毒」を怖い、と表しているのでしょうか。

で、あれば、6つある短編いずれもそのこわさは「刺さる」ほどに強いものではありませんでした。じめじめと湿った空気は感じられたので、寒さに弱い人ならゾクゾク感が得られるのでは?

「こわい」とは思いませんが、ギャル飲み志願の女性の話は、何と言うのでしょう、今どきの若者用語が連発されていて、そう言う意味では新鮮でした。そもそも「ギャル飲み」の存在も知りませんでしたし。この話では、若い世代の整形に対するハードルの低さも改めて感じられました。

ルッキズム が声高に言われる一方で、気軽に整形に手を出す人が(年齢を問わず)増えて来ているのは何とも皮肉だなと思います。