Audibleオリジナルである「オーディオファースト」作品の一つ。短めの小説でした。
「息吹」 平野啓一郎 著
一人息子の模試会場に迎えに行った息吹。到着が早すぎた為時間つぶしに入ろうとしたかき氷屋が満員で仕方なく入ったマクドナルドで、隣席の大腸内視鏡検査の話を偶然耳にした彼は、自身の健康にどことなく不安を感じ、自らも内視鏡検査を受ける事に。検査の結果良性ポリープという事で即切除され安堵したが、「もしあの時かき氷屋に行っていれば」「もしマクドナルドでがん検診の話を聞かなかったら」検査せずに放置のまま末期のステージにいたかもしれない自分の姿を想像し、それはやがて止められない妄想の連鎖に繋がっていく…
現実と妄想のパラレルワールドを行き来している主人公と、それに巻き込まれていく妻。読んでいくうち一体どちらが本当なのか、こちらもその混乱に引きずられて行きそうになります。
この想像が想像を呼んで洪水のように頭の中を押し寄せてくるという感覚、よくわかります。更に内視鏡検査という妙にありがちな設定が差し込まれていて、この主人公の不思議な感覚が何だかリアルに感じられるのです。
ちょっとSFを思わせる印象のストーリー。突き放すようなラストも良かったです。短めと思われる長さも、丁度このお話に合ってるような気がします。
インタビューでは、作者自身大腸がん検診を受けてポリープが見つかったという経験をされて、その時に本作を着想されたそう。偶然にもナレーションを担当した方も同じ検診を受けられていたらしいです。
そう言えば人間ドック、要再検二つもあったっけ。忘れずに受診しましょう…