「自由への手紙」日本へ向けたメッセージだけど台湾の「今」が見える本

台湾の最年少IT担当大臣として、そしてコロナ禍のマスク配布システムをスピード構築した功績で、一躍有名になったオードリー・タン。クーリエ・ジャポンによるインタビューが纏められたのが本書。Audibleで。

「オードリー・タン 自由への手紙」 クーリエ・ジャポン(編)

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格差、ジェンダー、仕事…あらゆる物差しに縛られず、解放されて自由に発想し行動する為の著者の考え方が、4つのチャプターに分かれて纏められています。

一度目ざっくり聞いたところ、立て板に水のようなサラサラと耳障りよいメッセージばかりで今ひとつ理解できていない気がしたので、再度聞いてみてわかりました。自分が想像していたよりずっとグローバルでフラットな考え方をしている人である事。そして政策その他多くの面で想像以上に台湾が日本よりかなり進んでいる事。

多分理解に時間がかかったのは、日本がそんなに遅れをとっている実感がなかったのか、もしくは自分の頭が固かったのか。

本書でも触れている例のマスク在庫が随時わかる「マスクマップ」アプリの導入時は、流石に台湾政府のスピーディーな対応に驚いたのを記憶しています。しかし、最新のテクノロジーを駆使しても一人も取りこぼしのないように弱者に視線をおいた政策が大事だとするオードリー氏の考え方が根底にあるのが、何より成功に導いた理由なのでしょう。

コロナ対応だけでなく、様々な試みと実践が見られる台湾。例えば教育現場。「実験教育」と称してチャイムやテストの無い独自の教育環境で運営されるオルタナティブスクールがその一例。試行錯誤もあるようだけれど、日本同様の受験戦争がある一方で詰め込み教育とは一線を画した自由な環境は画期的と思われます。

又、通常の学校でもネット(SNS)を上手に使えるようメディア・コンピテンス(リテラシー)の強化にも力を入れているのだとか。

台湾と言えば同性婚の合法化も。自身もトランスジェンダーであるオードリー氏。保守的な考えが根強い中、結婚はあくまで個と個の問題であり姻戚関係は別と理解してもらう事で、徐々に受け入れられるようになったなど、台湾国内でもやはり難しい問題ではあったようです。

それでもあらゆる議案を「ジェンダー共同参画委員会」に通す事で、事前にジェンダー関連のリスクを排除する努力をしているのも、時代にあった対応でしょう。

この他、国家としてバイリンガルを推進、二重国籍を認め観光ビザでの入国者でも六ヶ月後には健康保険加入可など、積極的に外国人受け入れに働きかけているのも画期的です。

同性婚二重国籍など、全てが日本にも導入すべきかは議論の余地があるでしょうが、何事にも決定まで時間のかかりすぎる我が国と比べて、その迅速さは羨ましい限り。

AIによる(認知労働を含む)労働力の補填についても、「期待しかない」と言い切るタンドリー氏。人間の仕事がAIに取られてしまうとする意見など一蹴しています。「不安になるのなら山にでも登ってリフレッシュしてみれば」と。テクノロジーの進化に後ろ向きになっていてはいつまでも停滞するばかりだぞと喝を入れられているようです。

台湾という国の「勢い」を感じた一方で、大丈夫か日本…と少々不安にもなった一冊でした。