映画化もされた作品。Audibleで。
「月の満ち欠け」 佐藤正午 著
小山内賢は妻の梢と娘の瑠璃を突然事故で亡くしてしまう。失意の小山内の前に三角という男が現れ、実は瑠璃は三角に会いに行く途中に事故にあったのだと語る。何の面識も無い男の言葉を訝る小山内に、三角は自分がかつて愛した女性の事を語り始める。それは死んだ娘瑠璃に繋がる不思議な話だった。
愛する男性に会う為、世代や場所を超えて何度も生まれ変わりを繰り返す女性の魂のお話。映画はこちら。
映画.com
輪廻というのでしょうか。生まれ変わってもあなたに会いに行く…一途な想いは、ファンタジーな要素を纏いながら、多くの人々を巻き込んで徐々に「目的の相手」に近づいていきます。
転生の度に、母体に宿った胎児の時から、「自分を瑠璃と名付けてほしい」と母親に夢でメッセージを伝え、7歳まで育つと自分の前世を思い出す少女になるというパターンを繰り返す瑠璃の魂。
非現実的な設定ながらリアルな恋愛小説として最後まで読むことができるのは、恐らく作者の力量で、直木賞受賞の所以なのでしょう。
確かに時間軸や登場人物が複雑に絡み合う割りに、大きく「迷子」にならずに一つの物語として楽しめた、という点では良かったと思います。
しかし、レビューの多くにあるように「純愛小説として本作に感動」したか、と言えば残念ながらそのような感想には至りません。
己の一念を貫く女性の恋心を良しとしたならば、そこに(全く意図せず)関わりあってしまった殆どの人が結果的に不幸になってしまった本作は、恋愛の切なさや一途さよりもむしろ人の不条理ややるせなさを示しているように思われます。
巻末の寄稿では伊坂幸太郎、直木賞の選評では浅田次郎や伊集院静など多くの作家から絶賛されている本作、小説としてやはり素晴らしいのでしょう。
思えば転生を「憑依」、一途さを「執着」と見ると、「数奇なる愛の軌跡」も不気味なダークファンタジーになってしまうわけで。
もう自分としてはそんな暗部にしか目がいかなかったので後味はあまり良くありませんでした。映画の方はどうもツッコミどころが多々あるらしく、怖いもの見たさでいつか観てみようかと思っています。