いつかこの人の本を読みたいと思い、「後で買う」に入れっぱなしだったのが、本屋で文庫本を発見!あぁ文庫になってくれてありがとう。迷わず買いました。
「いつかたこぶねになる日」 小津夜景
フランス在住の俳人である著者。しかし本作は句集ではありません。南仏ニースでの暮らしを綴りながら、その折々に思い出される古今東西の漢詩や作品に触れ、著者の目線で解説されているエッセイです。
著者を知ったのは以前に谷川俊太郎の詩集の解説を読んだ時。とても詩的な文章でこれはちょっと本編に劣らないくらいの存在感だったのです。
(ちなみに再度この解説を読み返そうと思ったのにこの詩集が見当たらず…引越しで何処かに行ってしまったようで残念)
さて彼女の本エッセイ。学校の教科書に出てきた記憶のある有名な詩人が多数紹介されています。その殆どがが漢詩。それらが時には七五調で時には自由な口調で現代文に翻訳されています。近寄りがたく硬い印象の漢詩も、その現代語訳と柔らかな説明文で、不思議と身近に感じられるように。
太陽と海の南仏での豊かな暮らしぶりの中、その頭の中には遥か古代の漢詩が泳いでいるという、読んでいるこちらの方がどこにいるのか迷子になってしまうような感覚になります。
漢詩の詠み手は、杜甫、白居易、菅原道真、夏目漱石、良寛… 名前だけで怖気付きそうですが、決して専門書のような敷居の高さは感じられません。
冒頭で著者自身が語っているように、本書は著者なりの漢詩へのつきあい方をまとめたもの。彼女の自然で柔らかな漢詩への接し方が伺える一冊になっています。
「漢詩のある日常を自由にデザインするきっかけになったら」と語る著者。
彼女がこんなに漢詩を日々の暮らしに落とし込めているのは、感性云々もさることながら、その際立った博識と膨大な知識がベースになっているのは確かなので、日常で自然に漢詩と向き合うのはなかなか難しそう。
しかし「何か漢詩、ちょっと面白いかも」と思わせてくれた本作。これを機に漢詩が楽しめるようになったら嬉しいけれど、多分まだまだ先の事のようです。