「星の子」信仰に取り込まれる両親を持つ子供の目線

今村夏子作品。今回はAudibleで。

「星の子」 今村夏子 著

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「わたし」は中学3年生の林ちひろ。未熟児で生まれ生後間もなく原因不明の湿疹にかかり、あらゆる手を尽くしたが全く効果を得られず困り果てた父親は、同僚のくれた「特別な水」を使用してみると、瞬く間に効果がみられ数ヶ月後には完治となる。これ以降この同僚が所属する宗教にはまっていく両親。父親は会社を辞め本格的に教団活動に専念し生活は段々困窮するようになり、やがて5歳年上の姉は家出する。

毎回「ちょっと変わった」人が登場する今村夏子の小説。今回は新興宗教のいわゆる2世が主人公です。前回本で読んだのはこちら。

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冒頭まもなく「奇跡の水」らしきものが出て来て、いかにも怪しい雰囲気。絵に描いたようにのめり込んでいく両親と、その奇妙な活動や生活にさして深く疑う事なく順応しているちひろ。生後すぐに両親が入信した為か、無理に強いられているのではなく自然と受け入れ、両親とも良く話しむしろ自他共に認める「仲のいい」家族です。

一方5歳上の姉は子供の頃から教団側とは馴染めず、両親ともしばしば対立、「不良になってしまった」彼女は家を出て行ってしまいますが、ちひろはそんな姉が理解できません。

親戚づきあいも途絶え周囲からも奇異に見られ、社会から孤立する一方で、教団の信者たちとの関係を密にしていくちひろ一家。やがて仲良くしてくれるクラスメートや気に掛けてくれる叔父さん家族との交流が生まれるうちに、ちひろの中にも少しづつ違和感を持つようになります。

一昨年から頻繁に取り上げられている宗教団体とその2世の問題。本作を読んでいると活動が日常になっていく様子を垣間見たような感覚に。金銭的な問題や社会からの孤立などあっても、居心地の良い信者たちとの関係に逃げ場を求めているように思われます。

いろいろわだかまりが芽生えつつも、信者との交流会や集団旅行に参加し楽しく過ごすちひろ

さて様々な解釈が生まれるようなラスト。これに関しては巻末の小川洋子との対談で作者が言及しているのですが、編集担当者と検討した結果、当初のシーン(教団の若手幹部が待ち伏せしているという不穏な終わり方)を変更し、両親のそばにちひろを置く事で、「この家族は壊れていない」「両親には悪意はない」というあくまで「家族の物語」にしたかったのだそう。

しかしその手前から「不穏」な空気は十分に作られており、当然ちひろは教団側に取り込まれるんだろうな、と想像せざるを得ません。だからこの変更したとされるラストはむしろ不自然に感じたのですが、対談ではこのラストが評価されていて、あぁこんな具合に意見が分かれるのも本作の良いところなのかも、とも思いました。