「猫を抱いて象と泳ぐ」でおとぎ話のようなストーリーを

先日読んだ小川洋子がよかったので再び。今回も、Audibleで。

「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子 著

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産まれた時に上下の唇が癒着していた主人公の少年。手術で切り離した際に脛の皮膚を移植したせいで唇に産毛が生える事にコンプレックスを抱き寡黙で孤独に過ごしていたが、ある日廃棄されたバスを棲家とする「マスター」と出会いチェスを教わるようになる。次第にチェスに魅了されるが、巨体のマスターの突然死そしてその大きな体が廃バスから運び出すことのできない状況を見た時、幼い頃デパートの屋上にいた象が成長し過ぎて屋上から降りられぬまま一生を終えた記憶と重なり、自分の体が大きくなる事への恐怖を感じ自ら成長を止めてしまう。最初チェス盤の下に潜ってチェスをしていた少年は、やがてからくり人形「リトル・アリョーヒン」を操りその中に潜り込んで対戦するようになる。

前回読んだのはこちら。

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何所かの国のいつの時代か特定できない「おとぎ話」のような不思議な印象のお話。身体にコンプレックスを持ち、更に意図的に成長を止めて社会と一線を画すような暮らしをしながら、一方でチェスの世界にのめり込みそのチェスを通して外界と関わり合っていく少年。身体的成長が止まった少年の人間的成長のストーリーと言えるでしょうか。

「体の成長を止める」と言う事が共通点となっているからでしょう。本作を検索すると「ブリキの太鼓」が並んでヒットする事がしばしば。私の中ではグロい映画の記憶が強いのですが。

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この小説では、主人公のみならずチェスに魅せられた人達がたくさん登場し、その対局と人生を重ねるシーンも多く見られ、特にチェスの素晴らしさを語る場面は著者の美しい表現でその世界観を堪能できます。

しかし繊細な主人公の世界観というか人生観には共感は難しかったです。「マスター」への敬意の深さはわかるのですが、その美化故なのか他の多くの登場人物との関わりは浅いままのようで、チェスの無限の世界を語る割りには結局最後まで自分の小さな世界から抜け出ることは出来なかったように見られます。

からくり人形が出てきたあたりからちょっと違和感を持ってしまい、この独特な世界観に没頭できなかったのは残念。

猫、象、ミイラ、からくり人形と様々なモチーフが登場し「おとぎ話風」に纏められているこの雰囲気が好みな人にはきっと好印象でしょう。個人的には「妊娠カレンダー」の方が好み。でも著者の文章は好きなので、また他作品も引き続き読んでいきます。