「妊娠カレンダー」で独特の世界観を読む

文庫本で「アタリ」が多い狭間にAudibleで耳読した作品。少し前の芥川賞受賞作。

「妊娠カレンダー」 小川洋子 著

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この著者は以前に「博士の愛した数式」を読んだ事が。映画を観る前に読もうと思ったのですが、読んでいるうちに寺尾聰深津絵里の顔が浮かんであぁこのキャストはぴったりだな、と思ったのでした(結局映画は観なかったけれど)。

本作は受賞作を含む3作からなる短編集。どの作品もこれと言った「オチ」がなく、特にAudibleだったせいか、次のチャプターにお話が続いているのか?と錯覚したくらいに終わり方も「ストン」としています。

なので物足りない、と感じてしまう人もいるかもしれませんが、私はこの淡々と起伏なく進んでいくような感じは嫌いではないです。

どの作品も状況や心理を描写する言葉が美しい。耳からでもその美しさが感じられます。まさしく「言葉を綴る」と言う表現がピタッと来る印象。

タイトル作を始め全体的に不穏な感じ。幸せなイメージを放つ表題からは想像できない、人の心の奥底の黒い物を見せられているような気がします。

産婦人科病棟や学生寮、学校の給食室など、それぞれ古びた施設が舞台が合間って、独特の雰囲気を醸し出しているようです。

チャプター2の「ドミトリイ」は特にホラーのような展開で、こちらの想像(妄想?)を掻き立てるだけ掻き立てて、最後は突き離されたような気にもさせるのですが、すっきりと終わらないいつまでも引っかかる余韻が付き纏うような印象です。

最後の「夕暮れの給食室と雨のプール」はごくのどかで静かなお話で、これはこれで良かったのですが、前の2つの後だっただけに、つい何か起こるんじゃないかと考え過ぎて、若干拍子抜けしてしまったのは少々残念。これだけ別に読みたかったな、と思いました。

いずれも陰湿な心理や悪意を細かく描写しているのにそれほど湿った感じがせず、むしろ「乾いた」印象を受けた作品。又好きな作家さんに出会えて嬉しく思います。