「ハンチバック」

ずっと気になっていた作品で、やっと読み終えました。文學界新人賞芥川賞受賞作。Audibleで。

「ハンチバック」 市川沙央 著

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重度の筋疾患(ミオパチー)を患い、電動車椅子と人工呼吸器を日々の生活を送ることができない釈華。親が遺産として残してくれたグループホームの一室がほぼ終日を過ごす彼女は某有名私大の通信講座を受講する一方で、密かに官能小説ライターのアルバイトを行いながら、Twitterでは「妊娠して中絶するのが夢だ」といかにも炎上しそうな毒を吐く毎日。誰にもバレていないと思っていたのにヘルパーの田中にアカウントが特定されている事がわかったのをきっかけに、釈華は高額の報酬と引き換えに田中に妊娠のための性交渉を依頼する。

主人公と同じ疾患を持つことから、呼吸器や車椅子と付き合いながら送る毎日の描写はとてもリアルで生々しい。背骨がS字型に湾曲する体を自らハンチバックと称するように、主人公の吐き出す表現は徹底的で容赦無く、自虐的とも取れるような印象。

「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」など、「中絶が夢だ」と同様に非難や反感を買いそうな台詞が目に入ってくるのですが、単に現実を悲観し自虐に走っているというよりも、身体的障害も歪んだ発想も持て余しながらも全て丸ごと抱えて生きていかざるを得ない主人公の矜持を見せつけられたような気がします。

受賞後のインタビューでも、小説において当事者性を露わにする事にいささかの躊躇もなく、寧ろこれまで重度障害者の受賞が無かったことを問題視してほしいと語っていた著者。その強い視点や熱量に惹かれて高評価のレビューが多かったのもわかります。

ラストは評価が分かれたそうですが、個人的には驚きや衝撃は少なくすんなりきたものの、後味が良いとは言いづらく共感や感動も難しい、でも強いメッセージ性は感じられた、というところでしょうか。

本作デビュー作ということなので、次回どんな作品が書かれるのか、見てみたいと思います。