「カレーの時間」手軽だけど鉄板の味で繋ぐ家族のお話

本屋でランキングに入っていたのを見つけて。Audibleで読んで見ました。

「カレーの時間」 寺地はるな著

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昔気質で頑固な祖父義景は女性蔑視な発言が多々あるまさに「昭和世代」な人間。孫息子の桐矢は女性ばかりに囲まれ育った繊細で綺麗好きな青年。義景が高齢になり心臓が悪い事もあり押し付けられる形で桐矢が同居することに。性格が真逆で何かと話が合わないが、カレーを食べる時には打ち解けた様子を見せる祖父には、秘密がある事がわかる。

気難しく口の悪い祖父。終戦直後から高度成長期をひたすら働き続けた彼は、その頃の多くの男性の典型のよう。特にこの祖父は家庭環境に恵まれなかった為、家族に対する思い入れが強く、その分気持ちのすれ違いも大きくなってしまったのではないか、とも思われます。

抱えていた「秘密」というのも別に大した事ない話で、こんな年寄りになるまで隠し続ける事も無いし、子供たちも今更聞かされたところで(10代ならまだしも)50もとうに過ぎていればもうどうでも良いと思うでしょう。

しかもこの秘密の暴露を巡って祖父と孫が言い合うやりとりも何だかしつこい。。この秘密の設定はストーリーに必要だったのかなと思うくらい。

しかし「頼むから黙っていてくれ」と何度も頼む祖父は、ひょっとしたら頼りなくて男らしくないと思っていた孫に諭されているうちに、この孫の力を借りて「秘密」の呪縛から解かれたい、自分こそ本当は男らしくない弱い人間だという事を死ぬ前に打ち明けたいと思うようになったのでは、とも考えられます。

あぁ家族って何て面倒臭くて厄介なんだろう。そう考えるとこの家族を巡るお話がぐっと身近に感じるように。

家族で食べる「カレー」と言うと、お母さんの作ったじゃがいもゴロゴロの黄色いカレーライスを連想するけれども、ここで登場するのは祖父が長年勤め上げた会社が製造するレトルトカレー。そこにその場その場の即興でいろんな具材を入れて孫に食べさせる祖父。

男らしさ、父親らしさに長く拘ってきたいかにも古い世代の男性だけれど、「らしさ」を超えて、最終的には家族の形も家庭の味もいろいろあっていいのだと思いながら人生を終えたのなら、それはそれで幸せなのかも。

正直読了直後は印象薄かったんですが、いろいろ思ううちに親の世代と重なるところを多々思い出し、不思議に余韻が長く続いています。