「六人の嘘つきな大学生」で就活生の心理をミステリーに紐解いてみる

今回もAudibleで耳読。

「就活生をめぐる二転三転するミステリー」という謳い文句に惹かれて。2022年本屋大賞5位。

六人の嘘つきな大学生

引用:kadokawa.co.jp

就活生の話と言えば思い出すのは、「何者」(朝井リョウ著)。仲間内に見せる顔とSNSでの裏の顔を使い分ける、就活中の大学生の話でした。読みながら「映画にするならこの役、菅田将暉がやったらいいな」と思っていたら本当に菅田クンが演ってホゥとなった記憶が。結局映画観ていませんが。

「何者」が就活を通して友人を見ている話であれば、本著は就活でたまたま知り合った者同士の話。

人気のIT企業の最終選考まで残った6人が最後のディスカッションに挑みます。課題は「誰が最終内定者としてふさわしいか」であり、その議論の結果に基づき実際の内定者も決まるというもの。

それまでライバル同士でありつつも友好的な態度を見せていた彼らが、試験会場で起きた「事件」をきっかけに今まで見せなかった「顔」を見せるように。嘘をついているのは誰なのか。犯人探しをするうちにお互いの裏の顔を見るようになる彼ら。

事件の真相や犯人の特定を巡り、前述のように話が二転三転します。どんでん返しがいくつも用意されていてそれを追いかける一方で、今どきの就活事情が興味を引きます。

学生に一番人気とされている件のIT企業は、最終選考で何と自分達で議論して最後の一人を決めさせるという奇抜な選考方法を取ります。そんな企業側も「優秀な人材を求めている」としながら、社内選考担当者は「持ち回り」。選考ポイントもマニュアルに沿って◯✖️でざっくりふるいにかけていくスタイル。

採用通知の結果に一喜一憂する学生達は、度重なる不採用の通知に全人格を否定されたような感情に陥ることもありますが、採用プロセスが「マニュアル化」され「形骸化」されている事は想定内。面接の度にポイントが高くなるような受け答えをするうちに「好人物」を演じ分ける事も可能になります。

過去にちょっと人助けをした事が「ボランティア活動に専念した事」になり、小さな仲間内の活動が「大人数のサークルのリーダーをしていた事」になる。言ってるうちに本当にそんな事をしていたような気になるというのは怖い気もしますが、激戦を勝ち抜くのはそれくらいタフでないといけない、という事でしょうか。

採用の行方を握る人事も社内では(営業などに比べて)決して花形の部署という訳でもない、といった辛辣なやりとりも。

さてそんな本著ですが、トリックが仕掛けられ伏線が回収されていく過程が「ミステリー」という感じで楽しめはします。が、二転も三転もするストーリーの割に犯人の動機が今ひとつ弱くて後半ちょっと長く感じました。

それと結局「みんないい人」である必要性もあまり感じず、案外「みんな悪い人」でも良かったんじゃないかとも。いや、それでは最後感動しないからダメだとするとミステリーというよりやっぱり青春小説ですかね。我が家の「来年就活生」に意見を聞いて見ますか。