今年の本屋大賞受賞作。しばらくお休みしていたAudibleで。
「カフネ」 阿部暁子 著
最愛の弟を亡くしたばかりの野宮薫子。生前遺言書を作成していた弟は元彼女である小野寺せつなを自分の残した預貯金の相続人にしていた事からせつなに出会いその旨説明する相続を拒否された上無礼な態度をされた薫子はあまりの憤りと過労からその場で倒れてしまう。家まで送り届けてくれたせつなが薫子の為につくったのはその態度とは裏腹にやさしい味の手料理だった。
妊活の失敗と離婚で憔悴の薫子と「家事代行サービス」スタッフとして黙々と調理をこなすせつな。性格も仕事も真逆の二人が様々な家庭の家事代行を共に遂行していくうちに強いつながりが生まれてくる、という一種の「バディもの」のような印象。
急死したはずの弟が手際良く遺言書をのこしていることなど、その死には疑問がぬぐえないことから「弟は死は果たして(鑑定通りの)突然死なのかそれとも自殺なのか」という観点もストーリーの大切な軸の一つに。
薫子とせつなの「死んだ男性の姉と元カノ」という微妙な関係を超えて対照的なキャラクターかくる軽妙な会話のやりとりと、全編を通じてせつながつくる繊細な手料理の暖かさで中盤まではテンポよく読めてよかったのですが…
不妊治療、ネグレクト、貧困問題、同性愛などなど今社会で注目されている問題が「てんこもり」に入れ込まれたせいか何だか散漫な印象に。弟の死因もサスペンス要素となっていたはずなのにどことなく肩透かしをくらったような結末に思われました。代行業者の視点で「家事」の重要性に注目しているのも面白いと思っただけに残念だな、と。
ただ、訪問する家庭ごとに生じるエピソードを読んでいくうちに連続ドラマを観ているような気持になったので、このいろいろ詰め込んだ感のあるお話も役者が演じることで見ごたえあるものになるのかもしれないとも思いました。
それにしても自分のチョイスがたまたまそうなのか「手料理」がエッセンスやテーマとなる小説が最近多くなっている気が…世の中がそういうのを求めているんでしょうか。本作でも調理の場面が多くその描写が秀悦であったのですが、意図せずチャンネル回したらグルメ番組に出くわしたような気分に(笑)。食って老若男女問わず関心が高く生活の軸であることからその大切さに改めて触れたことが概ね高いレビューとなった一因なのかもしれません。
