先月のウォン・カーウァイ特集。もう一本観ていました。
「ブエノスアイレス」
映画.com
愛し合いながらも何度も別れを繰り返すウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)。関係修復の為イグアスの滝に向かう途中又も喧嘩別れしてしまう二人。やがてブエノスアイレスで二人は再開。ファイの元に居候するウィンだが行き先も告げず気ままに街をうろつき、それが元で口論が続く日々。ファイは勤め先で同僚のチャン(チャン・チェン)と親しくなって行く。
自由奔放に相手を振り回すウィンと、そうと分かっていて腹立たしくも受け入れてしまうファイ。別れる度に「やり直そう」と決まり文句で当然のように戻ってくるウィンだが、別れはあっけなくやってくる。
2人の男たちの愛と別れの物語。
香港から遠く離れた異国で愛し合い、その濃密な関係が束縛や憎しみを生んで、愛憎が増幅していく様をねっとりとした湿度で捉えています。
どのシーンも美しくて記憶に残る場面ばかり。その分ストーリーは割と大雑把な印象も。特にファイが勤め先の中華料理店で出会うチャンが登場するあたりから、方向性が変わっているように感じられます。
実際、レスリー・チャンのスケジュールが合わなくなり、急遽チャン・チェンが呼ばれ彼のパートが増えたそう。この流動的なところがいかにもウォン・カーウァイですが。
結果的にはレスリー・チャンもチャン・チェンも、トニー・レオンの心情にスポットが当たるようにストーリーを支える役どころになったので、これはこれで良かったとも言えるでしょう。
監督の即興的な撮り方に最後まで応じて演じるトニー・レオン、何か職人的なものを感じてしまいます。
レスリー・チャンは儚げで刹那的な美しさ。「欲望の翼」の時の同じような印象だったけれど、特にこの映画は彼自身のカミングアウトやその後短命で散ってしまったことを考えると、いろいろ重なる部分もあったのかとも思われます。
さて、「ブエノスアイレス」で検索すると結構「パスポート」が並んでヒットしますが、実は私も気になっていた…。作中でファイが(ウィンを束縛する為に)ウィンのパスポートを隠してしまうシーンがあり、結局本人に返したかどうかは不明のまま。
「それくらい返してやれよ」と思いながら、まぁそんな瑣末な事は大いなるラブストーリーの前にはどうでも良いのかもしれません。