「主人と奉公人の恋」を2本の映画で観てみました

気になっていた映画をアマプラで。1994年公開です。

青いパパイヤの香り

青いパパイヤの香り HDニューマスター版 [Blu-ray]

引用:Amazon.co.jp

舞台は1951年ベトナムサイゴンの商家に奉公に来た少女を通して日々の暮らしと商家の人間関係が描かれています。

商家には毎日働くそぶりの無い父親、夫に代わって店を切り盛りする母、社会人の長男と弟二人、そして父親の母がおり、少女は年配の奉公人と共にその一家の世話をしているのですが、父の失踪やその死、一家が経済的に傾いていく様子など少女の視点から捉えられています。

面白いのはカメラワーク。少女の視線の先にある庭の緑や葉っぱを這う虫やこぼれ落ちるパパイヤの白い雫など、静かにアップで映されるのですが、それが本当に綺麗。庭一帯の緑と屋内の調度品が対照的に置かれて、全体的に一つの絵画を観ているような気分になります。

台詞は殆どなく、人物の動きも最小限に抑えられているよう。その中で雨の音や虫の声がベトナムの湿度の高い暑さを思わせます。

映画は主人公が奉公に来た10歳の頃と、その10年後の2つに構成されますが、場面はそれぞれの奉公先の家の中から動く事がないので、舞台劇のようです。

大人になった主人公は、新しい奉公先の青年と恋に落ちて…というラブストーリーに発展。でもラブシーンは一切ありません。指の動き、髪をとく仕草、口紅をひく姿など一つ一つの所作が艶めかしい。大胆なシーンよりよっぽど「エロス」を感じさせるんですね。

個人的にはそれでも主人公が少女だった頃の場面の方が印象的。緑の青さや調度品の白い冷たさのなかで、ただあどけなく見えていた少女が暗がりで見せる微笑みが妙に湿り気があるように映るシーンなどゾクッとする…これもカメラワークの技なのでしょうか。

映画で主人公がハッピーエンドとなるのは1961年頃。ベトナム戦争が激化するのはこれより少し先になる時期。つかの間の平和なサイゴンの生活なのかな、と思うと切ない気がします。

さて、主人である男と奉公人である女との恋愛、と聞いてすぐにこれを思い出した私。

「あなたの名前を呼べたなら」

2019年公開のインド・フランス合作映画です。

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引用:映画.com

こちらはインドのムンバイが舞台。夫を亡くしメイドとして住み込みで働く女性と、雇い主でありアメリ帰りの会社御曹司である男性。身分違いの二人が一つ屋根の下で暮らしていくうちに少しづつ近づいていきます。

「青いパパイヤ…」と違って、こちらはムンバイの街に出かけたり里帰りしたりと場面がコロコロと変わり主人公の女性もアクティブ。だってデザイナーという夢を追いかけているのですから。メイドをしながらキャリアを目指す一方で、古い慣習や周囲の目に縛られ思うようにいかない彼女。恋愛にも臆病になって行きます。

彼のことを「旦那様」ではなく名前で呼ぶ事ができるのか、デザイナーになる夢は叶うのか。

「青いパパイヤ…」とはまた違った女性像で、比較してみるのも面白いかも。