「火花」で芸人の舞台裏を読む

読まなきゃ、と思ったままだった一冊。紙の本をこよなく愛する又吉先生の著作をAudibleで。

「火花」 又吉直樹 著

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引用:Amazon.co.jp

漫才師である主人公が同業である先輩芸人に大きく影響を受けながら生活する様を描いた小説。モデルとなった先輩芸人もいるそうで。

全体として説明や描写がくどいくらいに長い。それなのに最後まで読了できるのは、やはり筆者が文才である所以なのではないか、と思われます。

多分本作を発表するにおいて「ほぉ、どれどれ」と、物見遊山で手にとる人は多いであろう中、「ある芸人の生き様」という、言うなればありきたりなコンセプトでストーリーを作ってきたのは潔さを感じられます。

一方で、徹底して冷静かつ客観的描写であるからなのか、売れない芸人のヒリヒリした感情の持って行きどころが希薄になっている印象もあるのです。

例えば主人公の相方との繋がりについても、(最後の解散ステージが描かれ、多分「ここは泣くところだぞ」的な感は拭えないものの)相方以外にパートナーはいない、と言う割には相方の描写は少なく、だからこそ最後の解散の話はとって引っ付けた感が何だか否めない。

主人公が憧れる先輩であり師匠でもある芸人の「破天荒さ」もさほどの迫力が感じられない。関西芸人なら横山やすしとか桂春団治とか(古いな。。)破滅型天才を想像するも、そんな荒っぽさは無いんですね。むしろそこの描写も淡々とされていて物足りなさすら感じます。

芸のあり方や夢や芸人の生き様みたいなものを、この師匠に思う存分語らせているのが本作の肝でありメッセージなのですが、もっと振り切った人物でも良かったような気がします。

実在の芸人がモデルとの事なので、極端に振り切らないのがかえってリアルなのかもしれませんね。

長い描写の割に、人物も「芸」も突き放して描いているような気さえしてくるのは、これが著者のスタイルなんでしょうね。芽の出ない芸人の焦りや妬み、熱量みたいなものは敢えて前面に出さないようにしているのかも。

文中にあるギャグやラスト近くの師匠の行動もよくわからないままだった…これはセンスの問題なのかな。

諸々で感情移入しづらいまま終わりましたが、映像化特にドラマ化したものの評価が高かったようなので今度観てみようかなと思います。

本作、ナレーションが堤真一。好きな役者さんです。

本作の次に出した「劇場」も読んでみるつもりです。又吉ワールドが少しは理解できるかな。