社会派「シカゴ7裁判」はエンタメとしても傑作

物凄く久しぶりにネトフリを開いて。リストに入れたままだった一本を。大好きなエディ・レッドメインジョセフ・ゴードン=レヴィットが出ているので。

「シカゴ7裁判」

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画像引用:映画.com

舞台は1968年米国シカゴ。大統領選を前にした民主党全国大会付近で「あくまで平和的に行う筈だったベトナム反戦デモが激化、警察との衝突に至った事から首謀者として7名がデモの翌年逮捕・起訴される事に。本作は当時その裁判がいかに不正に行われていたのかを描いたもので、実話が基になっています。

共和党ニクソン政権下の裁判で判事・検事側共に政府寄り。被告人に「非ありき」で裁判を進め、弁護側に不利な展開になるよう不当な対応を見せます。

1960年代という事でベトナム反戦運動や黒人問題が色濃く反映されています。当初は本件と全く無関係だった黒人活動家まで逮捕。「黒人も首謀者の一人」というストーリーにしたかった検察側の意図がうかがわれます。デモの鎮圧を名目に、過剰な暴力で攻撃する警察の姿もあり、まさに平和運動家たちと体制側との戦いが縮図化されているよう。

元々2004年頃からスピルバーグ監督で企画されていたそうですが、紆余曲折の結果2020年ネットフリックス出資・配信に。

本作は2020年大統領選にあわせた形で公開されています。上記の通り民主党側の運動によって(当時の)共和党体制の不正が暴かれ明らかにされるという構図から、「トランプ再選を阻止する追い風にしたい」とする制作側のメッセージは明らか。ハリウッドの映画人の多くが民主党寄りである事は有名ですから。2020年当時はBLM問題に関連し警察が批判されていた事もあったので、この点も含めると本作のインパクトは大きいでしょう。こういう使われ方、あまり好きではないんですけどね…

しかしそういう政治的な意図やスタンスと離れて「映画」としてみても本作はかなり面白いです。アクションも恋愛もコメディ要素もない、いわば「政治一色」の映画ですが最後まで飽きる事なく観られるのはストーリーの面白さと役者陣の「必要以上は出さない抑えた演技」ではないかな、と思っています。

主演のレッドメイン、反体制の活動家って「レ・ミゼラブル」を彷彿とさせました。こういう生真面目な役似合ってますね(完全に贔屓目です)。

主任検事役のジョセフ・ゴードン=レヴィットも、明らかに判事や上司の意図に不服でありつつ検事としての仕事をこなす人間を淡々と演じていましたし、弁の立つ活動家のサシャ・バロン・コーエンも良かった。

実話、という事で各登場人物のその後をググってみるとその後の人生は明暗分けたようです。政治家になって女優と結婚もした人。実業家で成功したけど事故で亡くなった人。政治運動が下火になった頃燃え尽きたように自殺した人もいれば本作公開の時も健在な人もいたり。彼らの誰もが影響を受けた事件だったことは間違いないのでしょう。