原作「死刑にいたる病」を読んで

予告編の阿部サダヲの不気味な笑いが怖くて躊躇している間に上映終わってしまい、代わりに原作を。久しぶりに紙の本で。

「死刑にいたる病」櫛木理宇 著

[櫛木 理宇]の死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

画像引用:Amazon.co.jp

映画は「孤狼の血」の白石監督だったし、久々中山美穂ちゃんも出ているので映画も興味あったのですが、原作を読了。読み応えありました。

日頃サスペンス系、特に猟奇殺人がらみは本も映画も苦手なジャンル。予想に違わず悲惨な描写もありますが事件の場面よりも「心理戦」が物語のメインになります。

予告編にもあるように、連続殺人犯が1件だけ「冤罪」を主張しその調査を主人公である大学生に依頼するところから物語は始まります。

連続殺人の、それもハイティーンを狙った異常な犯行という事で、犯人の常軌を逸したやり方から、その生い立ちを基に人格や人となりに目を向けていく主人公。

確かに育てられた環境は劣悪でありそこに同乗を示す人もいるような背景を持つ犯人。だからと言って非道な行為が許される訳はない。それがわかっていながら犯人との面会を重ねて行くうちに、いつからかその口調や物腰に引き込まれて行く主人公。

これは、「こんな悪事をしでかす人間は特殊な人物に他ならない」という考えを持ちながら、目の前の紳士然とした態度の犯人に、感情すら絡みとられて行く「普通の」人間の様子がうかがえるストーリーです。

物語の合間には、古今東西の凶悪犯のエピソードを織り交ぜ、平凡な日常にいかに容易く残酷な悪事の芽が入り込んで行くか、が語られています。

刑務所の閉じ込められた空間の中から、自由人である一般人を心理的にコントロールする犯人。緻密で徹底したやり口は、自分の「美意識」へのこだわりと陶酔が伺えるようです。

犯人の依頼に応じて調査を進めていくと、証人によって二転三転して行く犯人の人物像。それに伴って犯人に共鳴して行く主人公と一緒に、読者であるこちらも振り回されて行く感覚に陥ります。一瞬普通の感覚でも犯行に及んでしまうんではないか、と思わされる場面も。

それでも、個人的にはこれだけの連続凶悪事件に手を染める動機が何と無く弱いかな、とは思いますが、それを上回るくらい主人公との対峙と伏線の回収は見事です。

畳み掛けるように向かうラストで、あぁそういう風に終わるのね、と思わせておいて最終的にどうなるか。。。は(映画批評を見る限りは)恐らく映画と似たような結末かと。

人間の深い部分に切り込んでいくようなお話。著者の他の作品も読んでみたくなりました。