映画・原作:「82年生まれ、キム・ジヨン」で作品の突きつける問題を真っ直ぐに見つめてみる

2020年公開だから少し前になりますね。アマプラで観ました。

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映画を観る前に、原作とはかなり違うという話を聞いて先に本を読んでから。82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

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結婚を機にキャリアを捨て、専業主婦となり家事や育児に追われる女性が、諸々の圧迫感の中精神を病んでしまう… これは映画も原作も同じプロットですが、女性に対する見方というか取り上げ方がかなり異なります。

原作は主人公を診察する医師のカルテを基に淡々と話が進んで行きます。そこでは結局主人公が感じる幼い頃からの閉塞感やストレスなどを、(この医師も含めて)誰一人として理解していません。そこには徹底的な韓国での男女差別が根底にある事が分かります。そしてそれは現代も根強くあり、何も解決されていないのだ、という事も。

一方、映画の方は、(確かに男性社会での行きづらさはそこかしこで描かれているものの)夫は彼女に対し協力的だし、実家の男性陣も多少ピント外れな所はあっても基本的に主人公に理解を示そうとしていて、全体的に「救い」が見られるんですね。

加えて、どうも彼女の「キャリア志向」に軸が向けられているような印象。いろいろ当たっていくうちにサポートも得られ、彼女なりのステップアップが約束されるようなラストになり、いつの間にか彼女の「自己実現」のお話になっているんです。ほら、頑張れば大丈夫みたいな。

いやいやどうにもこうにも八方塞がりだったからこそ精神分裂症にまでなった訳で、そんな主人公の、つまりタイトルが表す「ごく一般的な女性たち」の辛さが、映画ではすっぽり抜けるまでは行かずとも、すーっと薄まっているような感じがします。

残酷なくらいがっちり正面から見据えている原作とはそこが大きく違うようです。

ただ映画ならではの良さもあり。何と言ってもキャストが良き。「トッケビ」のコン・ユも「新感染」でも共演していたチョン・ユミも、「ありふれた平凡な家庭」の夫婦をさりげなく演じていたし、特に普通の主婦が精神を病んでいく様子をチョン・ユミは好演していたと思います。元々自然に演技する人なんですよね。他の作品でも感情を抑えて演じる感じがとても好きな女優さんです。

原作とは違う「希望の持てるラストにしたかった」とインタビューで語る本作の監督は、女性で自身も仕事と子育てに悩んだ過去をお持ちとか。自身を投影させた形にした、という事ですかね。

正直明るい気持ちになるのは映画の方だけど、現実の韓国女性の厳しい生きづらさを知るのは原作の方かと。

要するに映画・原作いずれも目にして欲しいな、と思います。女性にも男性にも。